クルム伊達公子ロンドンで開催中のウィンブルドン選手権は26日に男女1回戦を行い、クルム伊達公子がドイツのカリナ・ヴィットホフトに6-0、6-2で完勝。通算12回目となる同大会の出場を、2年ぶりの勝利で飾った。

クルム伊達が、この試合最初にして唯一の「カモン!」を叫んだのは、試合開始から45分後のことだった。歓喜の声が飛び出したのは、勝利を決めたその瞬間。予選上がりの18歳に格の違いを見せつけた、圧巻の内容だ。

瑞々しい芝の上でのクルム伊達は、まさに水を得た魚のようだった。バウンド後に低く滑るコートは、クルム伊達の低い球筋のショットと抜群の相性を見せる。同じ球種を2つと続けて打つことはなく、先に仕掛けてネットにつめる戦い方も芝の上では効果的だ。

クルム伊達のあまりに早いリズムと展開力に、若く経験の浅い18歳は為す術がない。相手にしてみれば、何が起きたか理解するより早く、セットが終わってしまったのではないだろうか? 第1セットは19分。クルム伊達が相手に与えたポイントは、僅か5つだった。

あまりに一方的な第1セット。だが「こういう時ほど、難しい」とクルム伊達は振り返る。後がなくなった相手は思い切って戦術を変えてくる可能性があるし、開き直りが若さと重なり思わぬ力を生むことがある。現に、第2セットでも幸先良くリードしたクルム伊達だが、ゲームカウント4-1からのサービスゲームで、相手にブレークバックを許す。それも最後のポイントは、決まったかに思われたボレーを絶妙のロブで返されたもの。

「私のボレーが悪かった訳ではないのに、良いロブで返された。あのまま、相手に勢いを与えてしまう可能性があった場面」だと、クルム伊達も振り返った。そしてだからこそ、彼女は集中力を更に高め、ギアを一段階上げる。次のゲームはデュースの末に、三度ブレークに成功する。最後のポイントでは、フォアのクロスがネットをかすめ相手コートに落ちる運にも助けられた。

「若い選手は、少しでもスキを与えてしまうと勢いが出る。どれだけリードしていても、集中力を切らせていけないという緊張感は、常にあった」
これが、若手ベテラン問わず多くの選手が舌を巻く、クルム伊達の勝負師の資質だ。掴みかけた流れを強引に奪い返された挑戦者に、もはや気力は残っていなかった。
 
苦手だというクレーを半ば「捨てて」、照準を合わせてきたウィンブルドン。前週に腰の痛みが出るなどのトラブルにも見舞われたが、結果としては練習により多くの時間を裂くことができ、「色んなことが自分の良い方向に向き、ほぼ全てのことが完璧に近い状態になった」という。

「去年苦しんだ分、2年ぶりの思いも込めて」手にした会心の勝利。2年越しの渇望を満たすには、1つの勝利では物足りないはずだ。

※写真は、ウィンブルドン1回戦でガッツポーズを見せるクルム伊達
Photo by Hiroshi sato