ロンドン郊外で開催中のウィンブルドン選手権は6日に女子決勝戦を行い、マリオン・バルトリサビーネ・リシキを6-1、6-4で破って初のウィンブルドン優勝を果たした。バルトリは、6年前の2007年にも同大会の決勝戦に出場したが、その時はビーナス・ウィリアムズに敗れ準優勝に終わっている。バルトリにとり、これが初のグランドスラムタイトルでもある。

ウィンブルドンの決勝戦が、選手にとって如何に特別な場所であるか……そのことを改めて痛感させられた試合である。

波乱続きの今大会が生んだ最大のシンデレラ・ストーリーは、4回戦でセリーナ・ウィリアムズを破ったリシキの快進撃だ。セリーナ戦では、第3セットのゲームカウント0-3から逆転勝利。準決勝のアグニエシュカ・ラドワンスカ戦でも、ファイナルセット0-3からの逆転劇を演じてみせた。試合中にも笑顔を絶やさず、勝利の瞬間は歓喜の涙を流し、コートを離れる際には可能な限り多くのファンにサインをする。リシッキは大会のヒロインとなり、彼女の優勝に向け追い風が吹いているかに見えた。
 
そのリシキが、この日は完全に自分のプレーを見失った。バルトリの2連続ダブルフォールトによるブレーク献上で幕を開けた決勝戦だが、常にセカンドサーブも全力で打ち込むバルトリにとり、ダブルフォールトはさほど精神面に影響を及ぼさない。

問題は、サービスを最大の武器とするリシキだ。この日はさほど風が吹いていないにも関わらず、彼女は何度もトスをやり直した。第2ゲームの15-40の場面では、明らかに後方にブレたトスを無理に打って、ダブルフォールトを犯してしまう。準決勝まで彼女を押し上げた伸びやかなプレーは、決勝の重圧に押しつぶされてしまっていた。
 
僅か30分で落とした第1セット。リシキはバスルームブレークをとり仕切り直しを計ったが、いつものプレーは戻らなかった。自慢のフォアはことごとくネットにかかり、本来なら200キロを計測するサービスもスピードが上がらない。1-3とリードされた第5ゲームでダブルフォールトを犯した時は、ラケットで顔を隠すようにし、必死に涙をこらえていた。

「本来のプレーが出来ないことが、ただただ悲しかった……」

第2セットも1-5とリードされ、瞬く間に直面した3つのマッチポイント。ここから開き直って3ゲームを連取したのは、せめてもの意地だったろうか。それでも5-4まで追い上げた時は、観客に奇跡の可能性を感じさせもした。

だが、バルトリがそれを許さない。6年前にリシッキと似た立場にいたフランスのベテランは、第10ゲームの最初のポイントを、長く激しいラリーの末に物にする。この1ポイントが、実質的に試合を決めた。その後もサービスウイナー、さらにはフォアのクロスを決めて手にした4度目のマッチポイント。優勝を決めたのは、ワイドに鋭く決まるサービスエースだった。

「サービスがライン上に決まり、白いチョークがパッと飛び散る……その場面が私には、まるでスローモーションのように見えた」
 
6歳の頃から夢に見た憧れの地で頂点に立ったバルトリは、一目散にファミリーボックスに駆け上り、フランス人として最後にウィンブルドンを優勝したアメリー・モーレスモやフランス期待のクリスティーナ・ムラデノビッチ、そして父親と固く抱き合った。

これもまた、ウィンブルドンの特別性を物語るシーンである。

写真は、優勝したバルトリ(左)と準優勝のリシキ
Photo by Hiroshi sato