全日本選手権でベスト4に勝ち上がった斉藤貴史(津幡町テニス協会)のことを知っている人はかなりのテニス通だ。しかし彼のことを知っている人にとっては、このベスト4は「なくもない」というのが今年の全日本ドローだったと思う。その斉藤がいよいよテニスファンに認識されることになる。次の対戦相手は、斉藤にとってランキング最上位、世界121位の杉田祐一(三菱銀行)。斉藤が杉田を相手にどんな試合を見せるのか楽しみでならない。

 斉藤を知ったきっかけは志賀正人(フリー)だ。2012の全日本選手権で何より驚いたのは、慶応大学4年の志賀が「プロ」を目指しているということ。学生テニス界でナンバー1だった田川翔太が「就職」を選択していたことが、志賀の進路をいっそう際立たせた。

 プロになった志賀は2013年6月のグアム・フューチャーズで決勝まで進む。その直後に開催されたのが日本のF6(昭和の森フューチャーズ)だ。志賀のことが気になっていたので1回戦から見に行った。そこで志賀に6-3.6-2をつけたのが斉藤だった。しぶとさでは定評のある志賀を上回る斉藤のテニス。「誰だ、あいつ?」と思ったのが1995年生まれの18歳。プロ2戦目でフューチャーズ優勝を果たした斉藤貴史だった。

 石川県津幡町に生まれた斉藤は、中学生のときにはワールドジュニアの日本代表となり、高校は相生学院を選んだ。しかし、斉藤が目指していたのは「世界」。高校テニスと自分の夢との間にギャップを感じた彼は2年で中退してしまう。地元に帰った彼を親身になって応援してくれたのが津幡町のテニス協会。

有志が「斉藤貴史を応援する会」を結成。斉藤のチャレンジを応援することになる。高校でタイトルを取って、所属契約を交わし、プロになる、という流れに一石を投じるような興味深いスタイルだ。

 地元の応援に支えられた斉藤は2013年からフューチャーズを中心にツアーを回るようになる。その2戦目が2013年の昭和の森だ。この優勝で斉藤はいきなりランキングを800台に乗せ、以降は国内大会などには脇目もふらず世界へ挑戦する。2014年は全日本までにフューチャーズだけで24大会に出場。

遠征した国は、タイ、イタリア、スペイン、中国、香港、台湾、トルコ。日本開催のF6準優勝などもあり、全日本前のランキングは640位に。これは19歳の日本男子選手としては、アジア大会で金メダルを獲得、昨年の全日本で準優勝した西岡良仁に次ぐものだ。

 才能を持った若い選手は人を惹き付ける。今年に入ってからは、石井弘樹コーチが斉藤の遠征に同行することもある。札幌フューチャーズでは現役プロの鈴木貴男が面倒を見ている場面もあった。「やることはやる子です。とくにテニスに関しては妥協しない」と言うのは、斉藤を厳しく育てた母親コーチ。

斉藤は杉田には届かないだろうが、間違いなく自分の持ち味は発揮してくれると思う。どんな場面、どんな状況でも、けっして諦めないのが斉藤貴史というテニスプレイヤーだからだ。

 この記事を読んで斉藤貴史に興味を持った人がいたら彼の公式サイトhttp://takashi-saito.net/profile.htmlを覗いてほしい。