08年3月のエキジビションマッチでコートに戻り、そのままツアーに戻ったクルム伊達公子選手。4月末からの岐阜の2.5万ドルの大会ではシングルスで準優勝、奈良くるみ選手と組んだダブルスでは優勝と、いきなり結果を出しました。
復帰会見の時には「全日本に出場するのが目標」と話していた彼女が、09年1月には全豪の予選に出ようとしています。かつての実績を思えば、別に不思議ではないことですが、ここ最近の日本人女子のルーキーで、ここまでの快進撃をした選手がいないことを同時に思い出すべきかもしれません。久々の大型ルーキー、そう考えると、また別の視点も出てきて、さらに興味深くなると思います。
「クルム伊達公子選手の活躍と今後」の第1回の今回は、クルム伊達公子選手の復帰をどうとらえるかについて考察していきます。


※「クルム伊達公子選手の活躍と今後」は3部構成です。
⇒第1回:「クルム伊達公子選手の復帰をどうとらえるか」(今回)
⇒第2回:「クルム伊達公子選手とはどのような選手なのか」
⇒第3回:「09年のクルム伊達公子選手がどんな活躍ができそうなのか」

クルム伊達公子選手復帰賛成の声ばかりでなかった理由

彼女の復帰に関して、テニス界では、実は賛成の声ばかりではありませんでした。それにはいくつかの理由があります。
彼女ほどの実績を持つ選手が試合に出る、となれば、当然、大会主催者側は、ワイルドカードを下ろします。しかし、本来は若手に使われるべきその権利を、彼女につかっていい物なのかどうか。若手のチャンスの芽を摘むだけではないのか、ということ。
そして、「本気なのか?」ということ。というのは、選手というのは、引退後でも例えば1試合や1大会なら、その実力が出せるもの。引退するのは、年間を通じて戦える身体や精神力がなくなった結果ということが多く、パートタイムでいいなら、引退する必要がない、という選手はたくさんいるものなのです。
また、彼女が出てくれば、ただでさえ少ないスポンサーは、彼女に集中する可能性があります。クルム伊達公子選手が、本気で年間戦うつもりがあるのならいいが、冷やかしのつもりなら実力があるだけに迷惑だ、という感情的なものがあったこと。
最後に、「どうして今さら?」という疑問があったのも事実でしょう。37歳(現在は38歳)での復帰というのは、彼女が本気だとしても、常識的に考えて遅すぎます。

クルム伊達公子選手の復帰は本気で本物

しかし、それらの疑問すべてを彼女はその戦いぶりで払拭しました。彼女にチャンスを摘まれてしまう程度の若手になら、チャンスを与える必要はないかもしれない、年間十分に戦える体力を戻しているし、そのための努力もしている。冷やかしなどでは決してない、と人々の認識は改められていくことになりました。
そもそも、伊達さんという人が、復帰を視野に入れ、実際に戻ってきた、ということは、それなり以上に戦える自信があったと見るべきです。でなければ戻ってくるような人ではありません。
実際、最初のエキジビションマッチに向けての彼女の練習態度とその量は、現役の選手でもそこまでは、というものだったそうです。個人コーチとして帯同している小浦武志氏は、「もう止めろ、とこっちが止めたぐらい、今も徹底的にやっている。10代の頃に初めて会った頃と同じだ」と言っていたほどです。08年10月にあった、アディダスのイベントの後、参加者たちが帰った後のテニスコートで、一心不乱にフォアの練習をしているのを見たことがありましたが、それは完全に現役選手の真剣さで、これは本気なんだな、と感じさせられたものでした。

クルム伊達公子選手が復帰した理由

伊達さんは、復帰に際して色々な理由を口にしています。「今が自分が納得できるプレーのできる最後のチャンスだと思った」、「日本の若手に刺激を与えたい」、「身体が動くようになってきて、自分がどこまでできるか挑戦してみたくなった」……。
伊達さんは、08年11月に実父を亡くしています。結局間に合いませんでしたが、その父に自分がコートに立つ姿を見せて勇気付けたかった、という話もありました。夫であるミハエル・クルムさんの後押しやバックアップも強い後ろ盾になったとも聞きます。
日本の若手たちにとっての刺激、という意味では、凄まじい影響があってしかるべきだとも思います。岐阜の大会で、「何のためにこの大会に出ているのか、何のためにポイントが必要なのか、それをもっと表に出して戦うべき」と話していた伊達選手は、季節外れの猛暑の中、藤原里華をフルセットで下し、続いて山外涼月を、そして中村藍子を倒してその存在感を見せ付けました。
当時、話題にされたのが、「いくらなんでも負けた選手たちは情けない」という声でしたが、実際にそのプレーを見た側からすれば、その手の意見には同意しかねるものがありました。
※「クルム伊達公子選手の活躍と今後」は3部構成です。
⇒第1回:「クルム伊達公子選手の復帰をどうとらえるか」(今回)
⇒第2回:「クルム伊達公子選手とはどのような選手なのか」
⇒第3回:「09年のクルム伊達公子選手がどんな活躍ができそうなのか」
ライターXX