錦織圭、今年は全米オープン決勝進出を果たすなどの成績を残し、世界ランクは5位、来年はグランドスラム大会優勝を目指す活躍を遂げている。

「圭は、体が小さく、いつも後ろの方にいる物静かな少年でした。何かの折りに選手達を見渡したとき、後ろにいるにも関わらずなぜか圭に目がとまってしまう。何かをしてあげたくなるとか、何かをしなくてはいけないと思わせる少年でした。体も強い方では無く、むしろすぐに痛いところが出てきたり、怪我をしてしまうのですが、それでも打ちに秘めたガッツというか、ブレない心を持っていました。」

「盛田ファンド」のマネージャーとして米国留学ジュニア時代を担当し、現在は彼に続く世界大会で活躍するジュニア選手を育てている米沢徹コーチのインタビュー。

錦織圭

長期の遠征生活が選手の強化に繋がりました。留学先のIMGアカデミーで過ごしている期間は年間のうち3〜4ヶ月程度で、これ以外は、冬に4週間のマイアミ、春に2ヶ月の南米、夏に3ヶ月のヨーロッパの遠征を行いました。遠征を行う理由は、よりよい刺激を受けることができるということです。試合で集中力、勝つためのメンタリティーを学びます。そこから得た経験を次の練習で克服する。

長期遠征を組む場合、試合以外の時間は体や心を休ませる目的で、練習量はあまり多くないのが普通です。すると2週間を過ぎたあたりから急激に調子が悪くなり出します。私たちは、長期遠征の間も、普段と変わりない練習を、毎日繰り返していました。早朝から練習し、午後は試合を行い、ホテルに帰って試合で明らかになった課題を練習すると言う具合です。

こんなことをしたら、疲労からかえって調子を落とすのではと思われますが、ところが、この生活に慣れてしまえば、スタミナもパワーも、ボールへの感覚も維持できるため、調子が上がり良い結果が生まれます。疲労もこの方が残りません。さらに、選手達は、練習も試合もできるので、かえって喜び、モチベーションもあがります。

錦織圭

私は選手達にビリヤードを勧めたこともあります。ビリヤードは、球を正確につき回転や反発を利用しなければなりません。しかも、少しでもつく場所がずれてしまうと、球自体がツルツルした表面で滑りやすいため、キューが球を捉えることすら出来ません。この針の穴を通すような集中力と、球の中心を正確にとらえることが、テニスのボールを的確にインパクトする訓練になると考えたからです。

最初アメリカで行ったときは、圭も他の選手達もビリヤードをするのは初めてのようで、なかなか球を正確に打つことができませんでした。ところが、それから少しして日本に帰国することがあり、ほんの数週間ですがそれぞれ自宅に帰ることができました。つかの間の日本を楽しみアメリカに戻ると、またハードな毎日が待っていました。

そこでコートでの練習の合間に、再び私が彼らにビリヤードをやらせてみると、他の選手達が球をつくのに苦労しているのを尻目に、圭はまるでプロのようにキューを使い始めたのです。彼はもともと何かを会得するのが早いほうではありますが、ここまで短期間で上手くなっていることに正直驚きました。恐らく、日本での数週間、彼はテニスのためにビリヤードの練習に励んでいたのでしょう。圭の場合、指導者のアドバイスに耳を貸すというレベルではなく、とことんそれを自分のものにするまでやりきるという、恐ろしいほど肝の据わった一面もありました。

記事:長嶋秀和

情報提供:米沢徹