活躍する錦織圭選手のようになる為に必要な事、第3回。Passion Sports Training代表、日本テニストレーナー研究会代表、N’s Methodスポーツメディカル&トレーニングコーチの武井敦彦トレーナーの解説より

~ジュニア時代からの計画されたトレーニングの重要性~

イントロダクション

連載第3回目では、運動連鎖についてのお話をさせて頂きたいと思います。日頃テーピングやサポーターで肘、手首、又は膝関節などをケアしているジュニア選手を試合会場で見かけます。確かに、成長期に起こる”成長痛”と言われているものもありますが、彼らのショット時の打ち方を見てみると、力がボールに伝わっていない状態が多く、運動連鎖を行われていないのも事実です。

では、運動連鎖とは?という事ですが、Steindler博士はこう解釈しました。”ある関節で運動が生じると、その運動が隣接関節に波及する事“。テニスで言えば、パワーは下半身で生み出され、上半身と伝わり、そして腕、手首、ラケット、ボールへと伝わります。その順序が上手くいかないと、ボールに力が伝わらないだけではなく、”手打ち“になってしまいますので、手首、肘、そして肩周辺の障害に繋がる恐れがあります。

今回は、ジュニア時代から知るべき運動連鎖について詳しく話をしていきたいと思いますが、特にサーブとフォアハンドにフォーカスしていきたいと思います。何故なら、プロレベルの試合では、約75%ものプレーがサーブとフォアハンドで行われているというデータがあり、非常に重要な意味合いを持つショットになるからです。

サーブの運動連鎖

サーブを理解するうえで、まずは3つのステージがある事を理解しなくてはなりません。

1. 準備ステージ

2. 加速ステージ

3. 減速ステージ

1. 準備ステージ: トスを上げて、サーブを打つまでの構えを完了させるステージです。研究結果によると、51~55%のパワーが下半身と体幹で作り出されていると言われているほど、腕だけの強さだけでは良いサーブは打てません。

2. 加速ステージ: 貯めたエネルギーを放つステージになります。ここでは、下肢3関節(足関節、膝関節、股関節)の伸展である”トリプルエクステンション”を最大限発揮しなくてはなりません(詳しい説明は後程)。

3. 減速ステージ: ボールコンタクト後に、バランスが崩れないように、体全体でブレーキを掛け、相手リターンショットに対して準備するステージです。

S2 (1)

また、サーブの球種は基本的に3種類あります(フラット: 高速なサーブで真っすぐボールが伸びる、スライス: ボールの横を擦り、横回転をかける、スピン: ボールを下から上に擦り、縦回転をかける)が、3種類どれを打っても下半身からのパワー伝達や、上半身の力の出し方は変わらないと言われています、ですから、どの状況でどんな球種のボールを打とうと、サーブを打つ為には運動連鎖は欠かせません。

そして、準備ステージのスタンスですが、フェデラー選手のような足幅を広げる(FootBack)スタンスでも、錦織選手のように後足を前足に付ける(Foot Up)スタンスどちらを選択しても、サーブスピードには変化はないとのデータも出ていますので、各個人の好み、またはプレースタイル(サーブ&ボレープレーヤーはFoot Backの方が有利と言われている)で決めるべきです。

田沼

フォアハンドの運動連鎖

次に、フォアハンドについてみていきたいと思います。フォアハンドには3つのステージがあります。

1. バックスイングステージ

2. フォワードスイングステージ

3. フォロースルーステージ

1. バックスイングステージ: ボールインパクトを力強く行なう為には、伸長・短縮サイクル運動(SSC: パワーを発揮する前に、筋肉を伸長させる)が欠かせません。このステージでは、構えと同時に体幹の捻り動作が鍵になります。

2. フォワードスイングステージ: スムーズな体幹の回旋は、ラケットヘッドスピードの約10%を担い、肩周辺の動きを生むので、貯めたパワーを一気に爆発させるイメージで体幹を使いインパクトを行います。

3. フォロースルーステージ: 戦術、グリップ、打点の高さ、肩や手首の動きに対して影響されると言われていますが、様々な状況で柔軟に対応する力が重要になります。

現代のテニスでは、スピードが向上し、速い反応や走りながらのインパクトが増加している影響で、ほとんどのショットがオープンスタンス(右利きフォアハンド: 打球時に右足を右方向に踏み出す)を使用しています。しかし、スタンスの形はラケッドヘッドスピードには関係なく、体幹の回旋スピードが関係しているので、バックスイングからフォワードスイングステージのスムーズな運動連鎖と、トレーニングでは、体幹を含んだ、メディスンボールなどを使用したテニスに特化した運動連鎖トレーニングが鍵になってきます。

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運動連鎖トレーニング4つのステップ

運動連鎖を獲得するために必要な4つのステップを説明する前に、まずは理解しなくてはならないコンセプトがあります。それは”トリプルエクステンション”です。下半身には3つの関節(足関節、膝関節、股関節)があり、基本姿勢のパワーポジション(前回コラム参照)では、3関節が屈曲(曲がっている、パワーを貯めている)状態です。そこから、パワーを生み出すためには、足が地面を押し返す力(床反力)から、足首、膝、そして股関節が伸展(伸びる、パワーをリリースしている)状態になる必要があります。ですから、このトリプルエクステンションを理解し、打球時に無駄なく活用することが重要です。

以下4つのステップを行って頂ければと思います。

1 柔軟性向上

身体の柔軟性を向上させることが重要なのは理解して頂けると思いますが、4つの部位が重要になってきます。足関節、股関節、体捻転、そして胸郭です。

1. 足関節: 力を生み出す最初の関節ですので、その部位を最大限の可動域で活用する事が重要です。

2. 股関節: 22個の筋肉で構成されていて、6方向の動きを行う股関節ですので、この部位の動きが悪いと、力が下半身から上半身に伝わりません。

3. 体捻転: 所謂体幹部分です。元々体幹部分は他の関節(例: 肩、股関節、足首、など)のようにあらゆる方向に動く関節ではありませんが、体幹トレーニングなどや日々の練習などで、硬くなりやすく、回旋運動が上手くいかない原因にもなります。

4. 胸郭: 大胸筋がある部分ですが、この部位が硬くなると、サーブの準備ステージでパワーを貯める動作が出来なかったり、加速時にパワーに変換出来なかったりします。

2 基礎筋力向上

基礎筋力とは、サーブやフォアハンドを打つために最低限必要な筋力の事で、以下の4つの部位が必要になります。

1. 足首: 地面を押し返すために必要不可欠であります。

2. 股関節: 下半身で貯めたパワーを一気に上半身に伝えます。

3. 体幹: ショットを打つときに、バランスが崩れないようにします。

4. 肩甲骨: 肩周辺の強化で、力をスムーズにラケットからボールに伝える為です。

3 トリプルエクステンション向上

下肢3関節を伸展させるトレーニングをすることにより、よりパワーが足から作り出されている感覚を身体で覚えます。例えば、跳び箱に両足ジャンプで飛び乗るのもこのトレーニングの一つになります。下からパワーを上に伝える事が重要です。または、ミニハードルなどを横向きになりながら両足ジャンプするのも効果的です。

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4 テニスに特化したトレーニング

ここまで順序よくトレーニングをしたら、最後にメディスンボールという重りがあるボールなどを使用し、身体をフル稼働させながら、出来るだけ体を大きく使い、ボールを飛ばす練習を行います。身体が上手く使えていないと、ボールの軌道が安定しませんので、ボールの軌道安定や飛距離を確認するのが重要です。

最後に

運動連鎖についての理解を深めていただけたでしょうか?ただ暗闇にボールを打つ練習をするだけではなく、どのように打球をしたら、無駄なくパワーがボールに伝わり、効果的なショットを打てるか、そしてその結果障害予防にも繋がるかという事を理解することは非常に重要です。ジュニアの皆さんは、体の成長と共に、プロ選手が打っているような速くて重いショットはいずれ打てるようになりますので、今の段階では、身体全体を効率よく使い、ボールを打って頂きたいと思います。その結果、近い将来世界を驚かせるような選手になる事でしょう!!

著者: 武井敦彦、Passion Sports Training代表、日本テニストレーナー研究会代表、N’s Methodスポーツ
メディカル&トレーニングコーチ

経歴:アメリカネバダ州立大学ラスベガス校スポーツ障害マネージメント学部卒。MLBArizona Diamondbacks傘下マイナーチームや、横浜DeNAベイスターズのトレーナーを務めた。現在は多競技(テニス、野球、ビーチサッカー、馬術、バレー他)プロからジュニアアスリートのプライベートトレーニングを中心に、各種スポーツ医学セミナー講師、雑誌連載活動(Tennis Classic breakなど)を精力的に行っている。

資格:NATA公認アスレチックトレーナー(ATC), NASM公認パフォーマンス向上スペシャリスト(PES), NASM公認機能改善スペシャリスト(CES), PRI公認姿勢回復スペシャリスト(PRT)