錦織圭(22歳)の大きな良さのひとつは、相手を見ながら自分のプレーを出し入れできる点。押すべき時に押し、時には相手の意表を突く。余裕を持って試合を進められている時の錦織の強さは本物だ。


しかし、世界ランク94位のマシュー・エブデン(24歳、オーストラリア)との2回戦では、序盤から焦ったように攻めを急ぎ、ミスを重ねた。対するエブデンは地元ファンの声援にも後押しされ、あらゆるプレーの質が上がっていく。第2セットまではほぼ完全にエブデンのペースで進み、錦織はあっという間に3-6、1-6とされ、2セットを失ってしまった。
後がなくなった第3セット。錦織は何とか流れを変えようと、じっくりと打ち合う展開を増やしていく。相手の調子がいい時に、相手のペースで戦えば勝ち目もなくなる。リズムを変えて戦えるかどうかも、選手の能力を構成する大事な要素で、錦織はそれを数多く持っている。徐々にペースをつかんだ錦織は、一度落としたペースを終盤では再び上げて畳み掛け、第3セットは6-4で取り返し、続く第4セットもリターンから積極的に攻勢に出て6-1で物にする。
試合を最終セットに持ち込んだ錦織は、この試合中には左足の太もも、そして、第4と最終セットのセット間には、右足にできたマメの治療で時間を取った。やや戦術的に見えるインジュアリータイムではあったが、間を取るという意味では効果的であり、精神的に落ち着きを取り戻すキッカケにもできていたようだ。
全豪では最終セットはタイブレークがない。それだけに先にブレークするのが大事になる。
 
錦織のサービスからスタートしたこのセットは、第2ゲームで錦織がブレークに成功してペースを握る。リードしていたはずのエブデンと、追いついた錦織。両者ともにテニスの完成度は高く、とりたてて穴もないオールラウンダータイプ同士の対決は、ちょっとした勢いと経験、そして武器となるショットの差が勝敗を決めることがある。
次第に焦りが見え始めたエブデンに対して、錦織は自分の武器であるフォアで追い込んでいく。第6ゲームで再びブレークに成功して5-1とした錦織は、サービングフォーマッチでも、積極性と冷静さを失わなかった。サービスを深く入れてラリーをスタートさせ、ラケットを振り抜いていく。最後はエブデンのバックハンドスライスを詰まらせて試合を終わらせた。3-6 1-6 6-4 6-1 6-1の大逆転勝利。日本男子で2年続けて全豪の3回戦に進んだのは初のことだと記録では言うが、日本男子のテニスの歴史は今、錦織によって作られていると考えたほうが適当だろう。