9月30日から10月6日まで開催される「木下グループジャパンオープン2026」を現役最後の公式戦として迎える錦織圭(ユニクロ)が25日、会場となる有明コロシアムで大会前記者会見を行った。

8月の全米オープン予選では「ろうそくの火が消えた」と表現していたが、その後の回復について問われ、「今の気持ちは結構満足感もあって、来週の試合が楽しみ」と語った。体のコンディションについては「別にすごい良くもないですけど、できないわけではない」とし、コートに入ればアドレナリンや気持ちで押し切れる部分もあるため、心配はしていないと語った。

日本で戦う最後の公式戦への思い

日本での最後の公式戦となる今大会について、「全米でも熱い気持ちで、コート上でテニスをお客さんの前でできる幸福感があったが、日本でやるのはまた違う感覚になる」と述べ、「悔いのないように、最後自分のしたいテニスで終わりたい」と語った。また、ワイルドカードで今大会へ出場することについて「プレゼントをいただいた。すごくありがたい終わり方ができる」と感謝を示した。

さらに、ジャパンオープンで最も印象に残っている試合として、2012年、2014年の2回の優勝、ラオニッチと戦ったことを挙げた。2014年マレーシアで優勝した直後に東京での優勝を果たした年についても言及し、「この大会で優勝することは格別なものだった」と語った。

引退の二文字が頭をよぎり始めたのは、3〜4年前のことだったという。「怪我で辞めることになるのは嫌だ」「テニスがずっと好きだ」という純粋な情熱を糧に苦難を乗り越えてきたが、日々の練習やトレーニングを重ねる中で「気持ちと足が重くなってくる」という抗いがたい現実にも直面していた。

会見後、有明で坂本怜と練習を行った錦織圭 写真:伊藤功巳

表明した後の全米オープンでは、再び胸の内に熱い気持ちが湧き上がり、納得のいくパフォーマンスを見せられたことで、「出しきれたな」という手応えを得た。自身が納得できる終わり方を迎えられることへの晴れやかさが、その言葉からはうかがえた。

「最後の舞台で観客に何を見せたいか」という問いに対しては、「まず自分が楽しめればいい」と自然体を強調。一方で、近年のスポーツ界で繰り広げられた卓球での金メダル獲得や、サッカー日本代表の金星といった激闘に触れ、「スポーツの力ってすごい。人に光を授けられるものだと実感した。それを最後に自分が表現できるのは本当に嬉しい」と、コートに立つ最後の使命感を言葉にした。

なお、「最後に対戦したかった選手は?」と問われると、即座に「フェデラーがいたらフェデラー。唯一の憧れの選手」と答えた。

「一番楽しかった」ビッグ4時代と、現代テニスへの名残惜しい思い

錦織のキャリアを語る上で外せないのが、ロジャー・フェデラー、ラファエル・ナダル、ノバク・ジョコビッチ、そしてアンディ・マリーの「ビッグ4」やスタン・ワウリンカ、ダビド・フェレールら最強の猛者たちと火花を散らした黄金期だ。

「あの時代が一番楽しかった。大きな壁が存在してくれたからこそ、自分は成長できた」と当時を回想。特に圧倒的な強さを誇ったジョコビッチについては「めちゃくちゃ大きな壁で、常に挑戦を強いられる存在だった」と振り返る。しかし、ライバルたちがコートを去っていったここ2、3年は「気持ち的にどこか失ったような感覚があった」と、一時代を築いた者ゆえの孤独感も吐露した。

また、高速化とが進む現代テニスに対しても強い関心を示し、「今の若い選手たちともっと戦いたかった。球も速くなり、全く違ったテニスになっている。怪我さえなければ、続けて挑戦したかった」と、アスリートとしての飽くなき探求心と悔しさを滲ませた。

19年のプロキャリアを振り返って――誇りと悔恨

19年間に及ぶプロ生活の総括を問われると、自らの足跡を辿った。

「アジア人として誰も到達していなかった世界トップ10(最高4位)に入り、怪我に苦しみながらもよく頑張ったなと思う」と自身を労う一方、「度重なる怪我で数年分ものツアー期間を失ってしまった。グランドスラム(四大大会)のタイトルを取れなかったことが、一番悔いとして残っている」と率直な胸中を明かした。

最も印象に残っている試合には、準優勝を果たした2014年の全米オープンを挙げた。「決勝では緊張と体力の限界でボコボコにされましたが、トップ選手たちを破り、大きな舞台で素晴らしい試合ができたことは自分の誇り」と、日本テニス史の扉を開いた一戦を今も深く心に刻んでいる。

「スポーツは人に光を授けられる」来週の錦織も多くの人に光を与えてくれるだろう 撮影:伊藤功巳

次世代と日本テニス界のためにーー

引退後のビジョンについては「現時点で具体的なプランはない」としつつも、「まずは少し期間を置いて、自分に何ができるかを探す『自分探しの旅』をしたい」と笑顔を見せた。

そして何より強い想いとして語ったのが、日本テニスの今後について。

「自分が19年間で培ってきた経験を、特にジュニア選手たちに共有していきたい。日本のテニスがどんどん強くなってほしいという気持ちは誰よりも強く持っているので、自分にどんな手助けができるかをじっくり探っていきたい」

日本のテニス界を牽引し続けてきたエースは、未来の世代へバトンをつなぐ覚悟を見せた。ジャパンオープンでの彼の勇姿は、多くの人々に“光”を与えてくれるはずだ。

取材・文:保坂明美 写真:伊藤功巳