
「木下グループジャパンオープン2026」(東京・有明コロシアム/ATP500)は、10月6日、大会最終日を迎え、男子シングルス決勝の前に、錦織圭の功績をたたえるトリビュート・セレモニーが行われた。
16時50分、セレモニーがスタート。錦織がコート中央へと歩みを進めると、満員のスタンドから割れんばかりの歓声と拍手が送られた。
スクリーンには、13歳での単身渡米後、18歳でツアー初優勝、全米オープン準優勝、そして数々の死闘を繰り広げてきた軌跡を振り返るヒストリー映像が放映。続いて、ジョコビッチ、ナダル、マリーら世界中でしのぎを削ったライバルやツアー仲間たちからのビデオメッセージが流れると、有明のファンも胸を熱くした。

セレモニーには錦織のキャリアを支え続けたキーパーソンが椅子を並べる。その中で、盛田正明テニスファンドで若き錦織を世界へと送り出した盛田正明氏、そしてコーチとして彼を世界ランキング4位、グランドスラム決勝の舞台へと引き上げたマイケル・チャン氏がスピーチを行った。
長年ともに戦ってきたマイケル・チャンコーチは、「彼ほど素早く新しい概念や教えを吸収する選手を、私は他に見たことがありません。彼は成功に必要な努力から決して逃げず、キャリアを通じて直面した困難にも決して屈しませんでした。不平を言うことなく、粘り強く戦い抜いたのです。そうした忍耐力と精神的な強さこそが、彼をファイナルセットに強い選手にし、それを裏付ける数々の記録を打ち立てる原動力となりました」と、彼の飽くなき挑戦心と努力を称えた。

盛田氏は「日本を代表する素晴らしい選手になり、皆さんからも喜んでいただける成人になったと、私は大変うれしく思っております。 ただ、皆さんにお願いしたいのは、彼はまだ若いんです。彼の人生はこれからなんです。会場の皆さんには今までご声援をいただきましたこと、本当に感謝をいたします。ぜひこれからも今まで以上に彼を応援をしていただきたいということを私からお願いをさせていただきます」と、会場のファンへのお願いと錦織へエールを贈った。

その後、錦織自身によるスピーチへ。
マイクの前に立った錦織は、笑顔を覗かせ、集まったファンとテニス界へ向けて感謝の言葉を述べた。
「僕は13歳からアメリカに行き、そこで切磋琢磨して強くなることができました。自分がトップ5に入ることができたのも、本当に周りのサポートがあってこそだと思っています。ここにいる皆さんだけではなく、いろんなスタッフが僕自身のために色々と力になってくれて、ここまで来れたので、その感謝を今伝えたいと思います。 ありがとうございます」
続いて、今の率直な気持ちと、未来についても語った。
「テニスが…大好きですし、まだまだやりたいと正直思っていました。 悔いもたくさん残っています。 結果ももうちょっと出したかったなって思いもあります。国枝さんみたいに金メダル、グランドスラム取りまくることはできなかったですが、すごく楽しいこのテニス人生を送れました。まずはちょっと休ませてくださいね。 必ず戻ってきて何かをします。 日本テニス、アジアのテニスがもっと強くなるように、そういう未来をみんなで描けるように、僕自身も助けられたらなと思います」

誇り高きキャリアを全うした清々しい表情で語る言葉に、会場からは惜しみない拍手が降り注いだ。スピーチ後には手形押しが行われ、有明の地にその功績が記される。
錦織はコートをゆっくりと一周。スタンドのファンに手を振り、感動的なセレモニーは幕を閉じた。
日本テニス界の歴史を塗り替えた19年間の偉業

13歳で盛田ファンドの支援を受けて渡米し、2007年にプロ転向。2008年のデルレイビーチで18歳にしてツアー初優勝を飾ると、その才能は瞬く間に世界を驚かせた。
2014年の全米オープンでは、アジア人男子として史上初となるグランドスラム準優勝を達成。キャリア最高世界ランキング4位、ツアー通算12勝、そして2016年リオデジャネイロ五輪での銅メダル獲得など、彼が打ち立てた金字塔は数知れない。何より、178cmという小柄な体格でありながら、世界のハイパワー化が進むトップ戦線で「エア・ケイ」に代表される圧倒的な展開力と勝負強さを武器に戦い続けた姿は、世界中のテニスファンを魅了し続けた。
最後、彼はこんな印象的な言葉を残した。
「ずっとテニスが一番の夢でした。グランドスラムを取る、1位になりたいという強い思いが小学校の頃からありました。その夢に向かってひたすら努力して、大きな目標に向かって突っ走れたことは本当に幸せだったなと思います」
怪我と戦い続けた満身創痍のキャリアではあったが、すべてをテニスに捧げ、日本テニスの扉を次々とこじ開けてきた。世界を熱狂させ、夢を与え続けた19年間の挑戦に、心からの敬意と「ありがとう」を贈りたい。
取材:保坂明美、赤松恵珠子 写真:鯉沼宜之

