08年3月のエキジビションマッチでコートに戻り、そのままツアーに戻ったクルム伊達公子選手。4月末からの岐阜の2.5万ドルの大会ではシングルスで準優勝、奈良くるみ選手と組んだダブルスでは優勝と、いきなり結果を出しました。
復帰会見の時には「全日本に出場するのが目標」と話していた彼女が、09年1月には全豪の予選に出ようとしています。かつての実績を思えば、別に不思議ではないことですが、ここ最近の日本人女子のルーキーで、ここまでの快進撃をした選手がいないことも思い出すべきかもしれません。久々の大型ルーキー、そう考えると、また別の視点も出てきて面白くなってきます。
「クルム伊達公子選手の活躍と今後」の第3回の今回は、09年のクルム伊達公子選手がどんな活躍ができそうなのかについて予想していきます。
※「クルム伊達公子選手の活躍と今後」は3部構成です。
⇒第1回:「クルム伊達公子選手の復帰をどうとらえるか」
⇒第2回:「クルム伊達公子選手とはどのような選手なのか」
⇒第3回:「09年のクルム伊達公子選手がどんな活躍ができそうなのか」(今回)
クルム伊達公子選手の09年
彼女は先のことについては決して大きなことを語らずにここまで来ましたから、以下はあくまでも予想であり、願望です(当初は全日本に出るのが目標で、それが出るからには勝ちたいに変わり、東レ、AIGに挑戦する頃には、海外のツアーも視野に入ってきて、全豪の予選へ、という流れでしたから……)。
そして、すべてが順調で、大きな故障もしなかった、という前提で予測していきましょう。
「かつての力を戻す」ことではなく、「世界と戦うために新たに身につける」というレベル
全豪予選の結果はまだわかりませんが、相手次第ではそれなりの結果を残せていると思います。もし、本戦まで勝ち上がれていたとすれば、相手次第では2つ、3つ勝ってもおかしくはないでしょう。
09年のメルボルンは、あまり暑くならないという予報が出ているようですし、昨年張り替えられたサーフェスは高速タイプ。相変わらず大きめに跳ねる特性は彼女向きとは思えませんが、問題のない範囲でしょう。
ここで問題なのが、クルム伊達公子、という「ルーキー」が果たして、今の世界の女子たちが普通に打ってくるスピンボールに対して対応しきれるのかどうか、ということです。日本のサーキットでは主に砂入り人工芝で戦い、2回出たツアーも超高速の有明。前の彼女の現役時代にも、サンチェス-ⅤやC・マルチネスなど、やはりスピンを打つ選手はいましたが、今の女子たちはあのレベルのボールを普通に使ってきます。これの対応に苦しむようだと、そもそも戦えなくなります。
もちろん、そんなことは彼女自身も、また、陣営も百も承知でしょうから、その対応に取り組んでいるだろうと思います。最初はコーチ相手で始めた練習は、女子のトップジュニア、国内トップクラスの女子、フェド杯代表クラスと来て、今の練習相手は男子選手とレベルを上げてきています。今の彼女に求められているのは、「かつての力を戻す」ことではなく、「世界と戦うために新たに身につける」というところまで来ていると言っていいでしょう。
すでに、ほとんどの能力は戻っていると見ていいはずです。あとはプラスできるかどうか。彼女もテニス中継の解説者として、多くの大会を見てきていますから、今の女子の状況については、ある程度以上把握した上で、戻ってきているはずです。
追い風となる世界の女子テニス界の現状
伊達選手にとって、ある意味で追い風と考えられるのは、現時点での女子ツアーが過渡期に入っているということ。絶対的な強豪が不在となっている一方で、実は中堅層のレベルも伸び悩んでいる状況です。本来であれば、トップ10や20の力はまだないような選手でも、少しの活躍でそこに入れている、というのが客観的な評価です。
これは08年5月に5000ポイント以上持ったまま引退したエナンの影響がまだ完全にはなくなっていないからでもありますが、ウィリアムズ姉妹以降、パワー化を目指してまい進してきた女子テニス自体がやや単調化し、次のスタイルを模索し始めている段階、という影響もあるでしょう。
正直、上手な選手は増えているのですが、戦闘力の高い選手は多くないという印象です。好調時の中国の鄭潔や、調子が多少悪くても戦い続けようとするセレナ、ビーナス、シャラポワの戦闘力の凄まじさが目立つ程度でしょうか……。
ロシアンたちはこの辺りでやや淡白な選手がやや多く、ヤンコビッチとイバノビッチは、試合によってまだ大きな波があります。
ある意味でエナン並の伊達選手が戻っていく
そんな中に、戦闘力という意味だけで言えば、エナン並の伊達選手が戻っていく。伊達公子という選手は、相手のボールにアジャストできて、ボールが相手のコートに帰り続けてさえいれば、どんな相手でも勝ち負けに持ち込めるタイプの選手です。
もちろん、相手のボールが手におえないほど強ければ、歯が立たない可能性もあるのですが、それも含めて、彼女がどう対応しようとするのか。それもまた見所となるはずです。
戦者としての心境で挑めるのも大きな武器
また、今の伊達選手は、完全に挑戦者としての心境で挑めるのも大きな武器。負けても何も失うものはないですから、自分の持っているものすべてを使い切りやすい精神状態のはずです。
逆に相手にとっては、いくら元4位とはいえ、38歳の選手に負けるわけにはいかない、と思うものでしょうから、序盤に畳み掛けられたらメンタルが一気に崩されてしまうかもしれません(この辺りがスロースターターの伊達さんにとっては一番大きな不安点かも……)
ウインブルドンが見もの
一番、楽しみになるのはやはり、6月のウインブルドンです。そこまでの段階で伊達選手がストレートインできるランキングまで戻していたら、あとはもう見守るだけでしょう。
ウインブルドンを得意とする女子選手は多くありません。正直に言って、下位同士の試合では、プロの試合の体を為していない、というレベルの試合もあるほどです。先に打てる能力が最も生きる舞台ですから、伊達選手にもチャンスがあるはずです。
ナブラチロワが最初の引退で準優勝したのが「ウインブルドン+38歳」
ナブラチロワが最初の引退で準優勝したのがウインブルドン。この時のナブラチロワ、38歳でした。実は08年のウインブルドンの段階で、「来年、ここに伊達選手が来ていると思う人」と、取材に来ていたカメラマンたちに聞いたところ、一人を除いて全員が「出てるだろ。そのために復帰したんじゃないの?」という答えでした。
今の伊達選手に聞いても絶対に答えてはくれないでしょうが、ウインブルドンに戻る伊達選手の姿を見てみたいものです。
いずれにせよ、錦織選手の場合と違い、すべての試合が最後になる可能性もある選手。09年のクルム伊達公子選手の試合は、どれもプレミアムな価値を見出せるものとなるでしょう。
※「クルム伊達公子選手の活躍と今後」は3部構成です。
⇒第1回:「クルム伊達公子選手の復帰をどうとらえるか」
⇒第2回:「クルム伊達公子選手とはどのような選手なのか」
⇒第3回:「09年のクルム伊達公子選手がどんな活躍ができそうなのか」(今回)