今、のっている19歳土居美咲の2010年は、ランキング上昇分からでは分からない、大きな成長の1年だったといえる。2部構成の第2話(今回)は、2011年その可能性について迫る。(第1話:Vol.1「 2010年の飛躍」)
■土居美咲 Misaki Doi
誕生日:1991年4月29日
出身:日本 神奈川県
身長:157cm
体重:48kg
利腕:左利き/両手バックハンド
プロ転向:2008年
土居美咲の課題とその可能性
無限の課題を作り、取り組む力を手にした意味 「さらなる成長を可能にすること」
2009年までの土居は、ジュニア時代のテニスから、一般のツアーへの過渡期だった。フィジカルは元々かなり強く、パワーもスピードも十分にあったが、とにかくサーブが弱く、レフティとしての利点をまったく生かせているとは言えなかった。
例えばサーブの改良 「得意なスマッシュと同じ形に」
彼女自身もサーブにはパワー不足という認識があったようで、大きなテイクバックから、ラケットスピードを稼ごうとしていたようなのだが、2010年は一転してテイクバックを省略したスタイルにした。これは、得意のスマッシュと同じスタイルで打った方が、威力も安定感も同時に出せるという試行錯誤の結果、得られた結論だったという。
秋の全日本選手権では、このサーブから相手を崩す展開が多く見られた。リターンゲームを生命線とする日本女子たちを相手に、確実にサービスをキープし、展開を有利に運び切って優勝したというのは、大きな意味を持つ。世界的にも日本女子ほど、リターンに特化した集団は少ない。土居にとっては大きな自信にしていい結果なのだ。
この成長を支える素質「素直さと吸収力」
原田コーチの土居への評価「新しいことへの挑戦に躊躇(ちゅうちょ)がない。」
素直で吸収力があり、小さな課題を設定すると、それを次々とクリアしている。その日の試合の課題を、その日の内に練習で克服し、翌日の試合ではすぐに新しいことでも挑戦していける(そして成功している。)小さな課題と言っても、試合の中で常に新しいことに取り組んでいくというのは、言葉では簡単だが、実際には難しい。土居の素直で、しかもものおじしない性格が大きく影響しているといえるだろう。土居の高い吸収力も、そうした性質から生まれている。
フィジカル面での課題
土居はこの1年のフィジカル面での成長を次のように表現している。「トレーナーが帯同してくれるようになり、今は、良くなって来て充実感を感じている。
日本テニス協会がロンドン、リオデジャネイロ五輪でのメダル獲得に向けて実施しているのが「Gプロジェクト」。土居はその強化選手の一人として、専門の知識を持つトレーナーなどからの支援を受けている。10代の最後から20代の初期は、フィジカルが完成に近づく大事な時期。決して恵まれているとは言えない体格で、今後は世界のトップクラスと戦って、そして勝っていくことが求められる。テニスは打球技術や、組み立ての巧拙(こうせつ)に比重の重い競技特性は相変わらずとはいえ、近年は下位の選手のフィジカルも非常に向上しており、トップクラスとの差が縮まっており、WTAツアーレベルでは1回戦の段階から、かなりタフな試合を強いられるようになる。
そんな中で相手のボールに負けずに打ち返し、また連戦をこなしていくためには、短期的にはパワーやスピードのアップ、中長期的にはきちんとしたケアと、リカバリーのための習慣作りが求められる。技術や戦術のためにはコーチが、戦う身体作りにはトレーナーが、とトップクラスの選手たちの多くは、チーム体制でツアーを戦っている今、Gプロジェクトの支援を受けられる土居は有利なポジションにいると言っていい。
2011年の土居に求められること
まずはグランドスラムの本戦に1つでも多く出場して、経験を積み重ねることだろう。上背がないため、高く弾むボールを相手に多用されると辛いだろうが、持ち前のスピードとタイミングの早さ、コースの変化と角度をつけるやり方で先手を取っていければ、日本女子が伝統的に苦手としてきたクレーコートでも十分に戦える能力を持っている。何よりも、フォアを武器にしている点は大きな武器になる。
WTAツアーで普通にやり取りされるボールのスピードや、展開の早さには、実戦の中で慣れていく他、対応策はない。チャンスがあれば上の大会で、という前向きな姿勢の維持が、今後も求められ続けているのは確かだ。恐らく、最初は跳ね返されるだろうが、それを克服する能力を持っている選手。2011年の土居美咲、「さらに実力をつける1年」として期待していいだろう。
◆関連リンク
土居美咲、成長の秘密と可能性 Vol.1「 2010年の飛躍」