
アメリカのIMGアカデミーで錦織を13歳から指導し方向性を決めてプロにまで導いたゲイブ・ハラミロ氏。引退した錦織について思い出を語ってくれた。2回目はシャイな少年が見事なスピーチができるようになるまでのエピソード。
インタビューで「はい」しか答えない青年
彼が16歳の時にチャレンジャー大会に出場するために、日本に来たことがありました。飛行機で到着したのが朝の4時。事前に知らされていなかったのですが、入国審査を通ったところで、撮影クルーが待っていたんです。
ケイの髪はボサボサでシャツはよれていましたが、どうしようもありません。加えて、質問に全て「はい」としか答えていませんでした。コート上ではあらゆる状況への答えを持っているのに、インタビューでは何も答えられない。そこを改善する必要がありました。
当時、IMGアカデミーにはテニスコーチが約30名いました。アンドレ・アガシやピート・サンプラスといった名だたる選手たちを指導してきたコーチたちです。私たちは週に1度のペースでケイをミーティングに呼んで、インタビューのようなことを行うことにしました。
例えば、「稼いだお金で最初に買う時計は何にする?」といった質問をします。すると彼は「セイコー」と答える。「では、最初の車は?」「ホンダかな」といった具合でした。そこで私たちは、「でも、お金を稼ぐようになれば、ポルシェや、ロレックスを買ったりすることになるんだよ」と話したりしました。こうした質問を通して、彼が報道陣から同じようなことを聞かれた際に備えさせるようにしたのです。
観客の前で素晴らしいスピーチを披露

このトレーニングを最初は嫌がっていましたが、次第に見違えるほど上手になっていきました。彼が初めて日本でATPの大会に出場した際(※2007年ジャパンオープン)、初戦で敗退しましたが、観客向けて話すためにマイクを渡された場面を覚えています。
彼は観客に向かって、会場に来てくれたこと、応援してくれたこと、そして自分を信じてくれたことへの感謝を伝え、いつかこの大会で優勝すると約束しました。1年前では考えられないほど、素晴らしいスピーチでした。
スターになれるような選手を育てる際、メディアへの対応を教えるのも重要なプロセスです。彼らが大きな収益を上げられるかどうかは、マイクの前での振る舞いにかかっていますから。人々に好かれるか、うまく話せるか、そして見た目が良いか。彼はハンサムな青年でしたから、話し方を教える必要があったわけです。それも私たちコーチの仕事の一部なのです。
――③に続く
Profile
Gabe Jaramillo(ゲイブ・ハラミロ)
アガシやシャラポワなど11名の世界1位を育てた元IMGアカデミーのテニスコーチ&ディレクター。錦織を13歳から5年間指導して世界レベルにまで育てた。現在はRPSアカデミーのCEOを務める。
取材:赤松恵珠子

