ザビーネ・リシキ
ロンドンで開催中のウィンブルドン選手権は4日に女子準決勝の2試合を行い、2007年準優勝者のマリオン・バルトリキルステン・フリプケンスを6-1、6-2で圧倒。今大会、セリーナ・ウィリアムズを破る活躍を見せているザビーネ・リシキは、昨年の準優勝者のアグニエシュカ・ラドワンスカを6-4、2-6、9-7で破り、初の決勝進出を決めた。

経験豊富なバルトリが、初のグランドスラム準決勝の舞台に立つフリプケンスを、完全に飲んだ。フォア・バックともに両手で打つバルトリのスタイルは一貫している。あらゆるボールを全力で叩き、打ち合いの中でリズムを上げ、前へ前へと進みながら相手のペースを奪っていく。大舞台に硬さの見えるフリプケンスの浅いショットは、バルトリの強打の餌食になった。

ストローク戦を支配できれば、心の余裕も生まれていく。ドロップショットやロブも飛び出し、相手の反撃の芽を潰していく。フリプケンスも、スライスなどで相手のリズムを崩しに掛かるが、ひざに痛みを抱えた状態では、走り合いに持ち込んでもスピード負けするだけだった。

今季のバルトリは全仏で3回戦敗退、2週前の前哨戦は体調不良で棄権するなど苦しい時期を過ごしてきた。それでも「どんな時でも、またグランドスラムの決勝に戻って来られると信じていた」とバルトリは言う。「6年前より大人になったし、プレーも全ての面で良くなっている」という自信で、6年前の雪辱を期する。

もう一つの準決勝は、僅か1時間3分で終わったバルトリ戦を穴埋めするかのように、長く、競り、そして濃密な一戦だった。ラドワンスカとリシキは、初対戦が10歳以下のジュニア大会だという同期の24歳。二人ともポーランドの血を引くが、両者のプレースタイルは対照的だ。

ラドワンスカが技を駆使した頭脳的なテニスを身上とすれば、リシキは時速200キロを超えるサーブとパワフルなストロークが武器。異なるスタイルの激突は、両選手が縦横にコートを走り、試合の流れが幾度と無く入れ替わるスリリングな好試合となった。

先制パンチを食らわせたのは、瞬発力に優るリシキだ。サーブで崩し、豪快なフォアを叩きこむパターンでウィナーを量産し、スコアでは競りながらも優位に試合を進めていく。第7ゲームでは、150キロ前後のラドワンスカのサーブを叩いてブレークに成功。そのまま第1セットを奪い去った。

第2セットに入っても、リシキの優勢は揺るがない。最初のゲームをブレークし、続くゲームでもゲームポイントを手にする。だがここで、簡単なボレーを大きく浮かせる痛恨のミス。この一打が尾を引いたか、以降のリシキはミスが目立ち、ラドワンスカに流れを引渡してしまう。

試合巧者のラドワンスカは好機を生かし、第2セットを奪うと第3セットでも3ゲーム連取。ラドワンスカが、2年連続の決勝進出に大きく近づいたかに見えた。しかし今大会、同じような状況からセリーナを破った実績を持つリシキは、この窮地にあっても自分を信じていた。

「0-3になった時は『セリーナ戦では、ここから逆転した。もう一度同じことをやってやろう』と思っていた」

この気持の強さが、奇跡的な挽回を可能にする。足を動かし、ミスを減らしてラリーを続け、攻めるべき好機をじっと待った。第5ゲームをブレークバックし追いつくと、ゲームカウント4-4から再びブレーク。5-4とリードし、サービングフォーザマッチを迎えていた。

だがここで、ラドワンスカが会心のプレーでブレークバックに成功する。再び試合の潮目が変わるかと思われたが、リシキは「相手のプレーが素晴らしかった。やり直したいと思うようなプレーは無かった」と、素早く気持ちを切り替える。そのポジティブな姿勢が奏功し、第15ゲームで三度ブレーク。最後は、この日60本目のウイナーを自慢の右腕で叩きこみ、2時間18分の熱戦に終止符を打った。

試合後は、差し出される大量のボールやパンフレットの一つ一つに、丁寧にサインを書いていったリシキ。チャーミングな笑顔でロンドンを虜にした新ヒロインが、「一番好き」だと言うウィンブルドンで、初のグランドスラム制覇に挑む。

写真は、決勝に進出したリシキ
Photo by Hiroshi sato