上海ATP1000特別レポート4
昨日に続いてロジャー・フェデラーが快勝。ノバク・ジョコビッチを相手にしても、まったく危なげない勝ち方で、決勝に進出した。ジョコビッチはさすがに連戦の疲れもあったようだ。右肩には大きなテーピングがあり、その影響か序盤からサービスにいつもの切れがなく、フォアにも迫力が消え、フェデラーにはそこを突破口にされてしまった感じだった。
夕べの段階では「調子はいい」と余裕の笑顔を見せていたジョコビッチだったが、勝っている間の選手のコメントは、丸ごと信用はできない。彼らは翌日の試合を最初から棄権しなくてはならないようなケガや病気でも抱えていない限り、調子のことを聞かれれば「問題ない」と答えるのが常だからだ。
それは、自分の不利な情報を晒したくないからという意味だけでなく、戦う前からそういう言い訳を用意しておくことを良しとしないからで、選手のコメントからは言葉の意味だけでなく、そういう機微(きび)も感じとることが、時には必要だ。
さて、決勝のカードはフェデラーとアンディ・マリーになった。この二人の対戦成績は実はフェデラーから5勝7敗の負け越しで、直近でも夏のトロントの決勝で負けている。マリーはグランドスラムではまだ一度もフェデラーに勝てていないが、ATP1000の3セットマッチでは、前述のトロントの他にも、2009年のインディアンウェルズ準決勝、2008年マスターズカップ上海のラウンドロビン、2008年のマドリード、2006年のシンシナティなどで勝ち星を挙げていて、フェデラーからすると、数少ない苦手選手と言える。
マリーとフェデラーの相性で、恐らく一番マリーにとって有利なのは、マリーの持ち球であるバックハンドが、フェデラーのフォアの逆クロスに対して有効に機能することと、スライスがうまく、また、低いボールに対しての対処がうまいということになるだろう。フェデラーにしてみると、フォアでの攻撃力が減じられ、スライスの有効性も低くされるというやりにくさがあるのだ。
ところで、今大会のフェデラーは非常にいいパフォーマンスを見せているが、全米の後、ほぼ2ヶ月試合に出ずに調整をしてきた4強は彼だけであり、逆に言えば調子が良くて当然という話なのだが、これでまたスケジューリングに関する論争が復活しそうな気配もある。
というのは、ATPが数年後を目標にシーズンの短縮や、選手の負担の軽減などを検討中で、選手側もそれに対して様々な議論をしている最中なのだが、フェデラーの持論の一つが「大会を減らすのではなく、出たい時に出て、出たくない時には出ないで済む方法を模索すべき」というもので、今回の彼はそれを実践した形になる。簡単に言えば、女子のウィリアムズ姉妹的なスケジューリングを、今回フェデラーがしたとも言える。実はこのやり方にはナダルが追随する動きもある。
フェデラーやラファエル・ナダルのように強い選手は、試合数がどんどん増えて行くため、どこかで自主的な休養期間を設けないと身体が持たないという事情もあるし、フェデラーは年齢的にもベテランの域に入っている。また、彼は現行のルールを破ったわけでもなく、今後4大会の出場を表明しているため、一方的な批判はできないが、他の選手たちが疲労困憊の中、一人だけフレッシュな状態で勝って行く選手がいる、となれば、追随する選手が後を絶たなくなるのは明白で、現在のツアーシステム崩壊の原因となりかねない。今回のフェデラーの行動が、晩年のアンドレ・アガシがそうだったように容認されるのかどうか、まずは今後の選手たちのリアクションを見極める必要があるだろう。
さて、上海の会場にあって、日本にも欲しい施設と言えば、やはりインドアのフードコート。建物そのものは簡素で日本で言う高速道路のサービスエリアが一番近いイメージだが、雨天時などの避難場所として、あるいは雨天時でもゆっくりと食事ができる環境として、あるとないとでは大違いだろう。
もちろん、有明は東京都の施設なので、大掛かりな建物を作るには都民の広い合意があって初めて成立する事柄であり、テニスファンの声だけでは大事な税金を無駄遣いできない。
しかし、世界のトップクラスが一同に会して戦う大会が開催可能な会場が東京にできて、そこにATP1000級の大会を誘致し、大会期間中以外にはナショナルテニスセンターとして利用できれば、有形無形の様々なメリットが考えられそうなのだが……。やはり現状では難しいのだろうか。
※写真:インドアのフードコート。イメージとしては高速道路のサービスエリアに近い。写真はクリックで拡大。
(取材/浅岡隆太・Text/Ryuta ASAOKA)