ノバク・ジョコビッチ(24歳、セルビア)対ファビオ・フォニュイーニ(24歳、イタリア)の準々決勝がフォニーニの棄権で実施されなかったため、31日火曜日の男子準々決勝は、ロジャー・フェデラー(29歳、スイス)対ガール・モンフィス(24歳、フランス)の1カードのみとなった。
モンフィスのこれまでを記録だけで振り返るなら、最高位は現在と同じ9位。グランドスラムの最高成績は2008年の全仏のベスト4が最高でこれが唯一で、ベスト8に視野を広げても今回を含め、2009年全仏と2010年の全米の3回があるだけで、グランドスラム通算16勝、00年代最強のフェデラーとは比較にすらならない差がある。
しかし、モンフィスというのは不思議な選手で、記録ほどの差をコートでは感じさせない。誰が相手であれ、その日のモンフィスが「当たりの日」なら、何とかしてしまいそうな雰囲気を持っている。
だが、この日のモンフィスは、どこか堅く、動きが重かった。第3ゲームで先にブレークして先行したのはモンフィスだったのだが、それもフェデラーのミスのおかげと言った方がいい展開で、その後、フェデラーにミスが減り始めると、第6ゲームでブレークバックされてしまう。「最大のチャンスは第1セットにあったね」。試合後のモンフィスはそう振り返った。「今日はサーブがうまく決まらなかった。ベースラインからのプレーは徐々に良くなったのにね」。ダブルフォールトが11本、ファーストサービス時のポイント獲得率が62%しかない状態(フェデラーは76%)では、モンフィスもこういう言葉で自分の試合をまとめざるをえまい。
一方、フェデラーの出来が特別良かったとも言いにくい。スコア的には6-4 6-3 7-6(7-3)のストレートだったが、かつての彼なら、もっと早く試合を終わらせられていたように見えたのは、あながち思い違いばかりではなかろう。コート上の風が強く舞うように吹いていたことや、モンフィスのコートカバー範囲とその反撃能力に対する警戒、よりライン際を突く必要があったということを割り引くとしても、勝負所でフェデラーらしくないミスが目についた。記録上ではウイナー41本に対してアンフォーストエラーが42、フォーストエラーが34では、締まった試合を演じていたとは言いにくい。
ただし、フェデラー視点から見た時に、ジョコビッチとの準決勝を前に、モンフィスと戦えたことは大きな意味を持つ。今のジョコビッチは、モンフィスの運動力に極めて精度の高いテニスを組み合わせたような選手と言えなくもないからだ。フェデラーとジョコビッチの準決勝に向けて、フェデラーの要修正点を探し、その行方を占うには、モンフィスは仮想ジョコビッチとして最適の選手の一人と言えるだろう。
フェデラーがジョコビッチを倒し、決勝に進むためには、この準々決勝では、まだ精度を欠き気味だったフォアでの決定力を、さらに一段階高めなければならないのは絶対だ。今のジョコビッチはこの日のモンフィスのように、焦ったようにパワープレーを仕掛けては先にミスをしたり、簡単にポイントを取らせてくれるような場面は期待できない。守ると決めたポイントは徹底的に守り、チャンスが来るまでラリーをつなげてくる。
「彼(ジョコビッチ)にとっての準決勝は、全仏では初めての決勝進出を懸けての戦いで、それがナンバー1になれるかどうかという試合でもある。開幕からずっとすばらしいテニスをしてきた彼との試合が楽しみだね。きっといい試合になると思う」。
フェデラーは大会の序盤に「僕もここで一度勝つまでは大変なプレッシャーに苦しんでいたけど、2009年に勝って以来、ずいぶん楽な気持ちで戦えている」と話していた。連勝を続けるジョコビッチだが、そうした種類の突然のプレッシャーが彼に襲いかからないとも限らない。
とはいえ、尻上がりに調子を上げて来たフェデラー、絶好調と言えるジョコビッチの激突だ。今年の全仏の準決勝は、どちらが勝つにせよ、後々も長く語り草になるような名勝負を期待していいだろう。
現地レポート:浅岡隆太