全仏男子シングルスの4強は、第1シードから第4シードが全員勝ち残った。2006年以来の「波乱なし」の準決勝になることが決まった。


前哨戦の段階で予感は十分にあった。連勝街道をひた走るノバク・ジョコビッチ(24歳、セルビア)の絶好調ぶりは言うに及ばず、不調が囁かれたラファエル・ナダル(24歳、スペイン)もジョコビッチ以外には無敗で、出場した大会ではすべて決勝進出を果たしている。そして、その二人に最も苦戦を強いたのがアンディ・マリー(24歳、英国)だったのだ。また、クレーが苦手なイメージのあるロジャー・フェデラー(29歳、スイス)は、冷静に振り返れば2009年の全仏の覇者であり、その勝率でも歴代のクレーコート・スペシャリストたち以上の強さを誇っている。フェデラーが普通の出来でさえあれば、ナダルやジョコビッチ以外にはそう簡単には負けはしない。この準決勝の顔ぶれは、言わばなるべくしてなった結果だろう。
ナダルの準々決勝の相手はセーデリング。2009年の4回戦で彼に敗れたシーンは、多くのファンの皆さんの記憶に強く残っているのではなかろうか。だが、セーデリングがナダルにクレーで勝ったのはこの1度だけで、昨年は決勝できっちりとリベンジされている。選手同士には必ず「勝負付け」に近い感覚があるもので、この両者に関してはすでにそれがある程度済んだ関係と言ってもいい。セーデリングにとってのナダルは、自分のプレーができれば勝てるという相手ではない。自分のベストを出してどうにか勝負ができ、何か特別なプラスアルファがあってやっと勝てるレベルにあるという差を認めざるを得ない関係と言っていい。
○ナダル 6-4 6-1 7-6(7-3) ●セーデリング
ナダルの調子が大会序盤のように、自分でも不振と認めた状態のままなら、セーデリングにも勝機はあっただろう。だが、ナダルのストロークはほぼ好調時の伸びとキレを取り戻しており、ボールはコート深くに侵入して跳ね上がった。あの大きなセーデリングが、ベースラインより後方に位置しているというのに、ほぼ毎回肩口でライジングを打たされていた。
ラリーを続けるだけで精一杯。反撃の糸口を見つけ出すには、思い切ってリスクを取ってラケットを振り抜いていくか、さもなければナダルが打ち損ねてくれた時だけ。全仏で最強と呼ばれたナダルの「いつものプレー」がこの準々決勝では随所で見られ、それが最初から最後まで続いた。セーデリングがポイントを取るためには、よりラインに近く、そして強く打たなければならず、結果としてのミスが増えた。アンフォーストエラー(凡ミス)は41と記録されているが、それは技術的な調子の問題ではなく、ナダルから受けたプレッシャーで、より狭いところを狙わざるを得なくなった彼の心理状態に、その原因を求めた方が恐らく正解に近いだろう。
「ナダルはいいプレーをしてたと思うよ」。試合後のセーデリングはそう言いながら苦笑いを浮かべた。「ナンバー1プレーヤーとの対戦で、相手の調子が良くないことに期待するなんて、馬鹿げてると思う」。ソダリーリングにとってのナダルは、あくまでもナンバー1プレーヤーだった。
一方のナダルは「これで優勝できる自信が戻ったか」と聞かれて、「まだ準決勝がある。みんな簡単に言うけど、ローランギャロスで準決勝に進出するって並大抵のことじゃないんだ。自分としては最悪の状態で大会に入って、それでも準決勝まで来られた。これは僕にとっては既にすばらしいと言える結果でもある」と真剣な表情で言い返した。また、「毎日、すべての瞬間で解決方法を探し、トライし続ける。今日はたくさん見つけられた気がするよ」とナダルは続けた。
世界の4強がそれぞれに調子を上げてきた。準決勝は一日空いての金曜日。ナダルはマリーと、ジョコビッチはフェデラーと対決する。今季前半の男子ツアーのまさにクライマックスとなるだろう。
現地レポート:浅岡隆太