男子の準決勝は、第1~4までの上位シード勢同士の対決となった。目下、最も勢いのあるノバク・ジョコビッチ(24歳、セルビア)を筆頭に、グランドスラム16勝の史上最強の王者ロジャー・フェデラー(29歳、スイス)、全仏では過去5勝、いまだ1敗しかしていない現ナンバー1のラファエル・ナダル(25歳、スペイン)、今季のクレーコート・シーズンでその成長ぶりを見せつけたアンディ・マリー(24歳、英国)。それぞれが全盛期と呼んでもいい時期に、この4人が揃って戦う準決勝を演出できた今年の全仏は幸せな大会と言っていいだろう。
第1試合に登場したのは、ナダルとマリー。結果から言えば6-4 7-5 6-4のストレートでナダルが勝利し、6度目の決勝へと進出したのだが、試合時間は3時間17分。スコア以上の大接戦を両者は演じた。「こういう試合ではいつも、ほんの小さなことで左右される。大事なポイントでどんなプレーをしたか、あるいはちょっとした幸運も関係してくる」。ナダルは試合をそう振り返っている。この数日は強い風が吹くパリ。スタジアム内の風は一定の方向には吹かず、絶えず舞っている。向かい風だったと思えば横風になり、強くなったり弱くなったりしていた。第2セットの第2ゲーム、マリーは2本のブレークポイントを握ったが、プレー中に吹いた風がクレーを巻き上げてマリーを襲い、マリーにミスを強いた。ナダルはこれをきっかけにこのゲームを挽回。無事にキープに成功し、試合の主導権を掌握し続けた。
だが、準々決勝では好調だったフォアが、またも不安定化していたのも事実で、高い軌道を描いて急降下し、地面から発射されるように跳ね上がって相手のラケット面を弾き飛ばすナダルらしいボールが連発されたかと思えば、ラケットにうまく当たらず、力なく失速する場面も交互に訪れていた。風の影響もあったのだろうが、完全に好調時の状態に戻ったとまでは言えまい。
勝敗を分けたのは、18回中15回のブレークポイントをしのいだという数字が物語る通り、追いつめられたときの強さの差だった。「本当に信じられないほど強い選手だと思う。多分、彼は最強の一人に数えられるべき存在だと思うし、クレーでならすでに史上最強だと思う」。マリーはそう言っている。ただ一方で、「まだまだ僕たちの間には差があるけれど、だいぶ縮められたとも思うんだ」と、今季のクレーでの戦いを通じて、自分の成長ぶりを実感したのだとも話している。今後のマリーの活躍には期待してよさそうだ。
第2試合のジョコビッチ対フェデラーには様々な記録がかかっていた。ジョコビッチは勝って決勝進出を果たせば、ナダルに代わってナンバー1の座に就くことが確定。また、開幕からの連勝記録を42と伸ばせれば、1984年にジョン・マッケンロー(米国)が記録した史上最長記録に並ぶ。
記録のかかった試合の相手が、同じく記録ずくめの王者、フェデラーだったのは、ジョコビッチにとっては試練だった。
フェデラーは対戦前にジョコビッチが記録やナンバー1になることを意識しているだろうと話していて、自分の体験を引き合いに出して、「自分も最初のチャンスの時には駄目だったな」と余裕の笑顔を見せていた。
フェデラーは試合開始直後から集中力を極限まで高め、ジョコビッチにスピード勝負を仕掛けて来た。両者のラリーは通常ならウイナーになるはずのボールが何球もやりとりされて、やっと1ポイントが決するという、信じがたいほど高いレベルだった。
第1ゲームでいきなりジョコビッチのサービスゲームを破ったのはフェデラーだったが、ジョコビッチもすぐに取り返し、第6ゲームで今度はフェデラーがブレークを許すと、直後の第7ゲームでフェデラーが取り返すという意地とプライドの激突となった試合は、最後まで高い緊張感を保ったまま続く。
フェデラーの出来は良かった。相手がジョコビッチでなければ、今日のフェデラーから1セットはおろか、1ゲームでも取れていたかどうかさえ怪しいほど高いレベルのテニスをフェデラーは見せつけた。ジョコビッチの前に立っていたのは、この数ヶ月の不調で、衰えばかりが語られていたかつての最強選手ではなく、全仏制覇に向けて心身を万全に整え直した王者としてのフェデラーだった。
結果は7-6(7-5) 6-3 3-6 7-6(7-5)でフェデラー。すでに日没直前。電光掲示板がやけに明るく見えるほど暗くなったセンターコート。最後のポイントは、この日18本目のサービスエースだった。
グランドスラムの決勝に、ナダルとフェデラーが帰って来た。最高のクライマックスを、全仏は日曜日に迎える。
現地レポート:浅岡隆太