過去最高、80,131人の来場者数を記録し、初来日を果したラファエル・ナダルの優勝で幕を閉じた楽天ジャパンオープン・テニス・チャンピオンシップス。大会の置かれる状況と、テニス人気、そして、今後の期待を含めて考える。


rafael_nadal1010_3.jpgUSオープンの後に開催される、秋のアジアン・シリーズは、時期的には厳しい状況に置かれているのは確かだ。ほとんどのトップ選手たちにとっては、長いシーズンの疲れがピークになる時期。また、ヨーロッパやアメリカに拠点を置く選手たちにとっては、文化や習慣の違いの大きさから、アジア地域は地理的な距離以上に遠くに感じるものだという。ATPがわざわざ「前年トップ30の選手は、USオープン後にATP500の大会に1大会以上出場すること」というルールを作ったのは、上海のATP1000も含め、「シーズンの放課後」のようなこの時期に、遠くアジアまで遠征したくないというのが、多くの選手たちにとっての本音だろうとも言われる。
だが、ランキング中位以下の選手たちにとっては、この時期の大会でポイントは重要な意味を持つ。この時期に取ったポイントは、来季の全グランドスラムのエントリーに使える「貯金」となるからだ。グランドスラムの本戦にダイレクトインできるかできないかの選手は、それを確実にするため、シードが付くか付かないかのレベルの選手は、シード選手の地位を得て、全豪オープンに出場するためなど、それぞれに目的がある。この時期の各大会で、中位以下の選手が上位を倒すなど、番狂わせのような結果が目立つのは、そういった背景もあると考えた方が自然だろう。
kei_nishikori1010_1.jpg国内の状況に視線を戻そう。2003年にマリア・シャラポワが優勝した辺りから、秋の時期に有明でテニスを見る、という習慣は、日本のテニスファンに定着しつつあるようだ。今年の大会も火曜日以降は、ナダルの試合がなかった水曜日を除いて連日1万人を超えた。土日のチケットは早々に完売となった。ナダルや錦織圭の人気が原動力なのは間違いないが、生で見るテニスの魅力に気づいたファンが、翌年も来たいという気にさせる大会の雰囲気作りは、年々確実に進歩しているように思う。

rafael_nadal1010_4.jpgまた、白熱化するツアーの趨勢(すうせい)と共に、1回戦からでもレベルの高い試合が観戦できるようになったのも大きい。何より、現ナンバー1であるナダルが、どんな試合でもまったく手抜きをせず、戦い切ろうとする性格なのもツアーの雰囲気を締まったものとしているように感じる。ナダルがフルで戦っている以上、下位の選手がいい加減なプレーなどできるわけがない。今大会でも、真剣度の高い試合が展開され、シーズンオフ気分で、遊び半分の選手はほとんど見なかった。
もちろん、課題も多い。場内整理やチケットの販売方法とその告知方法のアップデート、訪れた観客たちに対する食事や休憩場所などホスピタリティの提供のさらなる充実などが必要なはずだが、現時点では、まだ訪れる観客が少なかった時代の思想を引きずっているような気配が強い。そろそろベースとして想定するイベントの規模を、一日1万人以上を基本として根本的に再確認してもいいのではなかろうか。チケット代の対価は有名選手の試合だけではない。ほぼ終日開催され、国内唯一の男子のトップカテゴリー大会。登場する選手の顔ぶれがどうであれ、テニスファンが訪れたくなる大会への成長を期待したい。そして、できれば観戦に行こうという時のコアとなる理由が、日本人選手の活躍によって実現される未来を願ってやまない。
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上段:決勝戦でのナダル
中段:日本期待の錦織
下段:表彰式でのナダル