ニューヨークで開催中の全米オープンは6日に女子ジュニアのシングルス準々決勝を行い、米国カリフォルニア在住の日比万葉が、第3シードのカテリナ・シニアコバを破ってベスト4進出を決めた。
「もう、こんなのばっかり…」試合が終わった直後、日比は照れたような笑みを浮かべて、そうこぼした。
彼女が言う「こんなの」とは、この日の試合展開を指している。第1セットはサーブで崩し、多彩なショットで相手のペースをかき乱して圧倒した。だが第1セット終了後、シニアコバはトイレに行くためコートを離れる。長時間待たされた影響もあったか、再開された第2セットではサーブが思うように入らない。サービスキープに苦しむ日比は、4ゲーム連取を許し1-5にまで追い詰められた。
そこから、日比の逆襲が始まる。再びサーブの調子が上がってきたため、ゲームをキープできるようになってきた。チェンジオーバーの際には、持ち込んだメモ帳を見て、基本に立ち返ることを試みる。
「書いてあるのは、凄くシンプルなこと。低い体勢を維持し、足を動かして、ボールを良く見る。今週はたくさんの試合で逆転してきたから、出来るのではという気持ちもあった」。
確かに今や“逆転勝利”は、日比の代名詞になりつつある。今大会の2回戦では、第2セットを2-4から巻き返し勝ち切った。ダブルスでも、敗戦まで2ポイントの逆境から追い上げ勝った試合がある。
このような窮地からの逆襲を可能せしめているのは、幼い頃から積み上げてきた経験値と、それにより鍛えられたメンタルと頭脳だ。
「小さい頃から、試合数だけは多くこなしてきた。マッチポイントダウンから勝ったこともあるし、こういう状況はたくさん経験しています」ある種の矜持を込めて、日比は言う。
「絶対に逆転する方法があるから、それを見つけられると信じてやるしかない。その辺は、カリフォルニアでたくさんローカルの試合に出て、積み上げてきました」。
初めて公式戦に出た8歳の頃から、日比は地元の大会で、あらゆるタイプの選手や逆境と戦ってきた。彼女が主戦場としてきた南カリフォルニアのジュニア界は、アメリカでも1、2のレベルを誇り、ある意味でプロより残酷だ。人種の多様性を反映するように、選手の性格や体格なども多種多様。モンスターペアレンツの野次にさらされることもあれば、国籍や人種に根ざすハンデを強いられたことも一度や二度ではない。そのような環境で、彼女は10年近く揉まれてきたのだ。経験値的には、既にプロ級だ。
そんな経験豊富な彼女も、グランドスラムJr.は今回が初の経験。「例えジュニアと言っても、グランドスラムはグランドスラム。アメリカでは本当に大きな大会なので、そこで準決勝に来られたのはすごく嬉しいです」
父娘で鍛えた匠の技を、アメリカ仕込みのメンタリティで織り成して、全米オープンでの快進撃は続く。
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※写真は、バックハンドを放つ日比万葉
写真/佐藤ひろし