第2回の今回もMLB マイナーチーム、横浜DeNAベイスターズのトレーナーを務めたPassion Sports Training代表、N’s Methodスポーツメディカル&トレーニングコーチの武井敦彦トレーナーの解説より。

~ジュニア時代からの計画されたトレーニングの重要性~

“フットワークをジュニア時代から強化したいが、現状ではラダー後に、テニス練習に移行しているが、あまり試合では目立った成果が見られないが、どのようなフットワークトレーニング方法があるのか?“

テニスに必要なフットワークとは?

テニスの動きは、70%は横方向の動きであると言われています。ネットアプローチや、後ろに下げられた時は、前後方向にも動く必要もありますが、平均移動距離は約4mで、この範囲で主に横の動きが行われているのが現状です。

1ポイント辺り平均約4回もの方向転換が行われ、3-5セットマッチでは約300-1000回とも言われています。そこで、只スピードが速いだけではなく、加速と減速を機敏に繰り返す事の出来る能力が必要不可欠であります。

また、1ポイントの平均時間は約6-10秒とされていますので、こちらもトレーニングの際に指針となる数字になります。
このように、試合中に必要なフットワークの背景を理解することが、計画的なトレーニングに向けて大事になります。

フットワークトレーニング~一歩目を早くする~

テニスは狭い範囲で、しかもある程度決められた距離を素早く加速と減速を繰り返すスポーツですが、人間が最大の加速スピードを獲得するためには、約20m必要だと言われています。しかし、テニスはベースラインからネットまでの距離が11.89mですので、トップスピードを得ることは不可能です。そこで、スタート時の一歩目の速さが重要になるわけです。

パワーポジション

フットワークで重要な一歩目を早くする為には、8つの要素を習得することが必要になります。

正しいポジション
所謂“パワーポジション”で準備出来るかどうか。この姿勢では、股関節に上半身の荷重が行われ、上下肢のバランスが整っている。

低い重心
先ほどのパワーポジションになる際に、重心を低くすることが重要になります。動き出すときは、足からのパワー発揮が重要になるので、安定した低い重心が鍵になります。

上下肢の使い方
基本的には腕の振りは肩甲骨中心となり股関節の回旋と共に動きます。 肘の角度は約90度、足裏では母指球を中心に地面を蹴り、体の傾きは約45~10°が理想的と言われています。

体幹の強さ
体幹については、様々な強化方法がありますが、体幹が安定することにより、頭蓋位置の安定から情報伝達の向上、そして足からのパワー向上が見られるので、運動連鎖も効率よく獲得出来ます。

ストレングス
最大限の力を発揮出来る能力になります。15~16歳前後から本格的にトレーニングを始めることが求められます。

パワー
短期間に力を作り出せる能力ですが、プライオメトリックなどのトレーニングはやはり15歳以上が効果を期待出来ます。しかし、小学生などでも、縄跳びなどで、地面からの力である“地面反力”を感じるトレーニングを行うことも可能です。

反応時間
テニス選手は相手の打球に対して、0.2秒以内に反応することが求められています。そこで、重要になるのが、臀部、ハムストリング、そしてふくらはぎ部分の効率的な使い方になります。

予測
相手の動き、癖を判断することも求められますが、やはり情報は目から入ってきますので、スポーツビジョンと言われている総合的な動体視力や静止視力が必要になってきます。

フットワークトレーニング~3つのステップ~

テニスにおけるフットワークの背景、一歩目を早くする方法を身に着けたら、次は実際にコート上で躍動感溢れる動きをする為のトレーニングが求められます。以下3つのステップがありますので、参照して頂ければと思います。

基本的なフットワークトレーニング
ラダーや、ミニハードル、階段、そして坂道ダッシュなどは、この部類に入ります。やはり、正しく体全体を使い、“走る動作”の獲得が行われないままテニスの動きをすることは、英単語が分からないのに、英作文を書くようなものです。まずはここが最初のステップになります。

準テニスに即したフットワークトレーニング
基本的な走動作を獲得したら、次にテニスに必要な動きをトレーニングする必要があります。例えば、スパイダードリルというものがありますが、5方向に加速、原則を繰り返すので、まさに準テニスに即したトレーニングとなります。

スパイダードリル

スパイダードリル
センターマークからスタートし、各ポイント(①ベースライン×右側シングルサイドライン ②サービスライン×右側シングルサイドライン ③Tライン ④サービスライン×左側シングルサイドライン ⑤ベースライン×左側シングルサイドライン)にあるボールをセンターマークにセットしているラケットに1球ずつ右回りで置く。スタートから最後のボールを置いた時点でストップウォッチを止める。

テニスに即したフットワークトレーニング
こちらのドリルは、テニスコーチとのコミュニケーションが鍵になります。上記の説明した体勢や考え方を理解した上で、実際にボールを打球しながら、フットワーク技術を獲得する事が必要になります。

このようにテニスのフットワークトレーニングを行う際に、テニスで使われる背景を理解し、段階的にトレーニングを積むことにより、より効率的、効果的なトレーニングが行われ、結果的に“テニスに必要なフットワーク”獲得が可能になります。ただ闇雲に、ラダーや坂道ダッシュを行うよりも、指導者自身が理解した上で行えば、選手にとっても納得のいくものになると思いますので、是非試して頂ければと思います。

記事:長嶋秀和
著者:武井敦彦、Passion Sports Training代表、N’s Methodスポーツメディカル&トレーニングコーチ