ロンドン郊外で開催中のウィンブルドン選手権は27日に男女1回戦および2回戦を行い、初戦を戦ったクルム伊達公子は、カテリナ・ボンダレンコに7-5、3-6、3-6で敗れた。


先の全仏オープンで左足ふくらはぎを痛めたクルム伊達は、ウィンブルドン前哨戦となるノッティンガムも、試合途中での棄権を余儀なくされていた。その後は出場予定の大会をキャンセルし、治療に専念しつつこのウィンブルドンに備えてきたのである。それでも大会3日前には、検査を受けた結果、「医者には、リスクが大きすぎる。試合には出るなといわれた」という状態だったというのだ。そのような手負いのクルム伊達をコートに向かわせたのは、「ウィンブルドンは一番好きな大会だし、これが最後になるかもしれない」という、テニスの聖地への想いであった。
そのような悲壮な覚悟でコートに立ったクルム伊達の戦略は、明確だった。いや、選択肢はひとつしかなかったといってもいいかもしれない。「相手がどうというより、如何に自分が動かずポイントを取るか」。だからこそ、バックだけでなくフォアでも、スライスを多用した。サービスリターンでいきなりドロップショットも打つ、奇策にも出た。
その多彩かつ頭脳的な攻撃は、強打が武器の相手を混乱させる。振り回されたボンダレンコは精神的にも乱れ、第1セットはクルム伊達が5-1とリード。だがクルム伊達にしてみれば、「あれしか作戦はなかったし、自分のよさであるネットプレーもほとんどできなかった。リードしていても、リズムをつかんでいるという思いは無かった」という。
さらに相手も、徐々にクルム伊達の攻めに順応しはじめる。逆襲を開始したボンダレンコに5-5まで追いつかれるが、それでも持ち前の驚異的な集中力と勝負強さを発揮し、再び相手を突き放した。
だが第2セット終盤から、クルム伊達は何度も足を気にし、そのたびにストレッチをした。相手の強打を追うことができない場面も目立ちだす。第3セットに入ると、ついに足が上げた悲鳴を聞いたのだろうか。トレーナーを呼び簡単な治療を受け、そして最後まであきらめず持てる技術と戦略を総動員し、第3セット0-3から追いつく見せ場も作った。相手のマッチポイントになっても、痛む足を引きずるようにボールを追い続け、長いラリーの末に、最後はフォアの押さえがきかず1時間58分の熱戦は幕を下ろした。
「まだ現役を続けられると思うか?」試合後の会見で地元メディアにそう問われたクルム伊達は、「もちろん、ケガさえなければ。でもそれは簡単なことではない……」と言葉をにごした。
身体の声と、心の声に耳を傾けながらの苦しい戦いは続く。