以前、12歳以下の男子選手をアメリカ遠征に連れて行った際、現在トッププロとして活躍しているオジェ・アリアシム選手のコーチであり、当時カナダのジュニアチームを引率していたコーチに、
「どうすれば彼のように、コート上でクリエイティブなテニスができる選手を育てられるのか?」
と質問したことがあります。
その時、そのコーチは私にこう言いました。
「クレーコートでテニスをさせる以外で?」と。
その言葉の意味を考えると、クレーコートというのは、ジュニア選手のクリエイティビティを育むのに非常に適した環境であるということだと思います。
ちょうどその頃、アメリカのテニス協会も12歳以下の選手たちに、クレーコートでプレーする機会を増やす方針へと変わり始めていた時期でした。
実際に、その環境で育った選手たち――ティアフォー、フリッツ、トミー・ポールといった今のトップ選手たち――は、ジュニア時代からクレーコートでしっかりとテニスの土台を作ってきた世代です。
今、プロのテニスは“パワーテニス”が主流になってきたと言われています。
確かに、それは事実だと思いますが、彼らはその前段階として、ジュニア時代にしっかりとクリエイティブなテニスをしていました。
「クリエイティブなテニス」というのは、単に派手なプレーをすることではなく、ボールの高低差を使ったり、球種やスピードを巧みに変化させたり、見ていて思わず「上手いな」と感じるような多彩なプレーのことです。
そのような駆け引きをベースとして持っているからこそ、今のようなハイパワーなプレーも成立しているのだと思います。
現在では、プロ選手のスタイルを模倣する形で「どんどん前に入って強打しなさい」といった指導も見られます。
もちろん、そういったスタイルも大切ですが、テニスは“相手とのかけひき”のスポーツです。
ただ強く打つだけでなく、相手を下げさせる、ミスを誘う、タイミングをずらす、ラリーの主導権を取る、ネットを取る――そんな多様なプレースタイルをジュニア期にしっかりと身につけることが、将来につながると私は考えています。
実際に、そういった駆け引きをしながらプレーする選手のテニスを見るのはとても楽しいものです。
今活躍しているプロ選手たちも、そういった“楽しさ”のあるテニスをジュニア時代に経験してきたからこそ、今のスタイルを自分で選び、磨き上げてきたのではないでしょうか。
だからこそ私たち指導者は、「強く打つ」ことだけでなく、「どう駆け引きし、どう戦うか」という土台づくりを大切にしていくべきだと思います。
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次回は、この「駆け引きの力」をどう育てるかについて、もう少し具体的にお話ししていきたいと思います。