ロンドンで開催中のウィンブルドン選手権は29日に男女3回戦を行い、クルム伊達公子は、昨年の優勝者にして第1シードのセリーナ・ウィリアムズとセンターコートで対戦。第1セットはセリーナのサービスゲームをブレークするなど見せ場を作るも、2-6、0-6で敗れベスト16進出は成らなかった。
「史上最高の選手の」の呼び声も高いセリーナは、今年2月に世界1位に返り咲いて以来、その地位を脅かされることなく先の全仏オープンでも頂点に立っている。今年3月から現在までに重ねた連勝は33。まさに、無敵の女王だ。
その女王にクルム伊達は「私にしか出来ないテニスで挑む」と試合前に公言し、コート上でそれを実践した。互いにキープで迎えた第3ゲームでは、セリーナとフォアで果敢に打ち合い、ストレートへの切り返しでウイナーを奪うと共にブレークポイントも手に握った。
ここはセリーナのサービスに妨げられるが、第7ゲームでは2度のデュースの末に、鋭いリターンからネットに詰めてボレーを決める。続くポイントでも、バックの打ち合いからダウンザラインへ展開し、ついにはブレークに成功。リスクを負って攻めるクルム伊達の勇気と冴え渡る華麗なネットプレーを、1万を超えるセンターコートの観客は、巨大なウェーブで称賛した。
第2セットは、フィジカルとパワーで優るセリーナと打ち合う中で、徐々にクルム伊達にミスが増え始める。セリーナのフレームショットが絶妙なアングルショットになる不運などもあり、スコア的には一気に走られた。それでも、フォアのスライスで相手の逆を取り、セリーナに呆然とボールを見送らせる場面があった。ダウンザラインをコーナーギリギリに打ち込むと同時にネットに詰め、返ってきた浮き球を叩き込んだ豪快なスウィングボレーもあった。クルム伊達がこの試合で決めたボレーは8本。これは、セリーナの4本を大きく上回る数字だ。
「キミコは40歳を過ぎているのに、物凄くフィットしていて良いテニスをする。心から尊敬している」「キミコはボールを捉えるのが早く、とても攻撃的」
試合後に女王の口からは、リップサービスとは思えぬ驚嘆と称賛の言葉がいくつも飛び出した。
一方のクルム伊達は「想像していた以上に、ラリーに持ち込めば自分のテニスが出来たという感触があった。ストローク戦では、自分のリズムと支配の中で出来たときもあった」と手応えを口にする。戦前は「出来ることなら、対戦せずに済ませたかった」と言っていたセリーナとも、今は「次はハードコートで対戦したい」と早くも再戦を希望する。
もちろん、再戦を望んでいるのはセリーナも同じだろう。姉ビーナスから、対クルム伊達のアドバイスをたくさんもらったと言うセリーナは、「キミコとはまた対戦するだろうから、教わった内容は明かせないわ」と不敵に笑った。
テニスの聖地で実現した、テニス史上最強の選手と、史上最強の“オーバー40”の初対戦。それは、新たな物語の始まりかもしれない。
写真は、ウィンブルドン3回戦でサーブを打つクルム伊達公子
Photo by Hiroshi sato