
皆さん、こんにちは。白川 智菜美です。
前編では、ガットの状態をプロにみてもらうことが、単なるメンテナンスを越えて「プレーの客観的な診断」になるという驚きの事実を伺いました。
続く後編では、私たちプレーヤーが最も頭を悩ませる「テンション」について、そして膨大な種類があるストリングの中から、どうやって「自分の一本」を導き出せばよいのか?そのプロセスについて、私がアンバサダーを務めさせていただいている「ウインザーラケットショップ」の斉藤さんにお伺いしていきます。

私自身、かつては何を選べばいいか分からず「コーチにお任せ」の状態でしたが、感触を大切にしたいという思いから、コーチに相談し、一つひとつ試して自分にぴったりのセッティングを探してきました。今回お話を伺って、「これを知っていたらもっと効率よくベストパートナーを探せたかも」と思ったので、ぜひ皆さん参考にしてみてください。
劣化した「45ポンド」と、新品の「45ポンド」は別物
ー私はガットが切れない時でも、「なんとなく飛びがいまいちだな」「パヤンパヤン(打球感が緩い状態)してきたな」と感じると変え時かなと思うんです。こうした感覚以外に、一般のプレーヤーがチェックすべきポイントはありますか?
斉藤さん:その「飛ばない」と感じる感覚は、実はすごく大切で、正解なんです。時間が経って飛ばないから張り替えようという感覚を持っていただくのが、一番良いタイミングだと思います。
ー感覚を信じていいのですね。
斉藤さん:ただ、ここで注意が必要なのがテンションの解釈です。よく「50ポンドで張っていたけれど、緩くなった今の状態(推定45ポンド)が良いから、次は45ポンドで張ってください」というリクエストをいただきます。でも、これは少し違うんです。
ー今の感覚が良いなら、その数値にするのが正解ではないのですか?
斉藤さん:糸自体が伸び切って劣化している状態の45ポンドと、新品のフレッシュな状態で張る45ポンドでは、状態が絶対に違います。今の「劣化した緩さ」が良いからといって新品をその数値で張ってしまうと、理想の感覚にはならないはずです。
ーなるほど。劣化した緩さを基準にしてはいけないのですね。
斉藤さん:はい。ガットの寿命を3ヶ月とするなら、その大半は「あまり良くない状態」で打つ期間になります。安定したテンションで打ち続けるためには、初期設定を低くしすぎない方が良い場合もあります。最近はローテンションで試される方も増えていて、30ポンド以下で張る方もいらっしゃいますが、まずは基準をどこに置くかが重要ですね。
35年の変遷:素材とテンションの「常識」は変わった
ー斉藤さんはこの道35年ですが、その中でストリングの流行はどう変わってきたと感じていらっしゃいますか?
斉藤さん:今はポリエステル素材が圧倒的ですが、昔はそんなことはありませんでした。さらに最近は、五角形や六角形、八角形といった「多角形ポリ」が一般的になっていますね。表面のコーティングも進化していて、糸同士が滑りやすく、しっかりボールを引っ掛けてくれるタイプが非常に人気です。

ーテンションの設定についてはどうでしょうか。
斉藤さん:昔に比べれば、今は全体的に低くなっています。平均しても50ポンドはいかないでしょう。だいたい47〜48ポンドあたりでポリエステルを張る方が男女問わず多いですね。
ー男女でそれほど差はないのでしょうか?
斉藤さん:極端に女性が低すぎることも、逆に高すぎることもあまりありません。差があったとしても2ポンド程度の違いかな、と感じるくらいですね。
「飛びすぎるから上げる」の落とし穴
ーテンションを決める際、筋力やスイングスピードなど、どこを基準に選べば良いかアドバイスはありますか?
斉藤さん:すべてが絡んできますが、私が少し危惧するのは「ボールが飛びすぎるから、どんどんテンションを上げて飛ばなくしよう」という考え方です。
ー飛びすぎるから上げる。一見、論理的な気がしますが…
斉藤さん:テンションを上げれば糸のたわみが少なくなって、確かにボールは上がりにくくなります。でも、逆に少し下げてみた方が、球持ちが良くなって引っ掛かりも増し、結果としてボールが収まりやすくなるという人も大勢いるんです。
ー硬くすればいいというわけではない、と。
斉藤さん:そうです。でも一番残念なのは、自分が「何を何ポンドで張っているか」を知らない人が多いことなんです。「シールが剥がれたから分からない」「コーチにお任せなので自分では知らない」というケースですね。
ーかつての私のように「お任せ」の方も多いのですね。まずは自分のスペックに興味を持つことが大切ですね。
上達を加速させる「新品の時の記憶」
ー最後に、ギアにこだわっていきたいと思っている方が、自分に合ったセッティングを探していくためのアドバイスをお願いします。
斉藤さん:まずは、自分が何を張ったかをメモしておくこと。そして何より、「張りたての最初の数日間の感覚」をしっかり覚えておいてください。
ー劣化した後の感想ではなくですね。
斉藤さん:はい。数ヶ月経って悪くなった後の状態は、正直どのガットでもそれほど変わりません。でも、張りたての状態で「引っ掛かりが良かった」「球持ちが良かった」という記憶を持っておくと、それを手がかりに次のセッティングをどう変えていくか、私たちと一緒に考えやすくなります。
ー不満がある場合も、その「最初の不満」を伝えればいいのですね。
斉藤さん:その通りです。時間が経てば絶対に飛ばなくなります。その変化の前の、一番良い状態の時の感覚こそが、理想のセッティングを導き出すための最大のヒントになります。
【道具の力を、自分の力に変えるために】

斉藤さんのお話を伺って何よりの収穫は、「張りたての記憶を言語化すること」が、自分にとって最適なセッティングを見つける近道ということを知ることができたことです。
「今の状態が良いから」と劣化した後の状態を追いかけるのではなく、ガットがベストな状態においてもっと自分に何が必要なのか?を見極める。そのためには、まず、すべてお任せでなく、自分のスペックを正しく把握し、張りたての数日間で感じた感触や違和感を覚えておくことです。
私自身、コーチに相談しながら試行錯誤してきたプロセスは、自分の打った時の感触と、実際のボールがどうなのか?ということのすり合わせでした。自分が使っている道具を知り、その変化に敏感になることは、自分のプレーの解像度を上げることにも繋がります。
皆さんもぜひ、次回の張り替えでは「最初の数日間の感覚」をメモしてみてください。斉藤さんのようなプロのストリンガーは、その記憶から、あなたを上達へと導く最適な答えを導き出してくれます。
斉藤さん、今回は本当に貴重なお話をありがとうございました!
それでは皆さん、良いテニスライフを♪

