皆さん、こんにちは。テニス大好きなアナウンサーの白川智菜美です。
このコラムを読んでくださっている方は、私と同じくテニス大好きな方が多いのではないかと思うのですが、皆さん[道具]にはどのくらい気を遣っていらっしゃるでしょうか?

人それぞれテニスの好きな部分は色々あると思いますが、私が好きな瞬間のうちの一つに「打った時の感触」があります。ボールがラケットに乗る感覚、思い通りに飛び出していく手応え…「これだ!」となる瞬間があるんですよね。その心地よさが、テニスの楽しさを何倍にもしてくれると感じています。

それに、もし道具の力を借りることで自分が少しでも強くなれるのであれば、その力を最大限に活用したいとも思っています。とはいえ、最初からガットに詳しかったわけではありません。ナイロン、ポリ、ナチュラルといった種類も、糸の形状に関してもなかなか教えてくれるところはありませんのでちんぷんかんぷんでした。

いつも「コーチにお任せ」状態だったのですが、とあるコーチに「自分が使うラケットやガットにはこだわった方がいいよ」とアドバイスいただき、知る努力を進めていったのです。
自分のプレーに合うものは何なのか?コーチに相談し、協力してもらいながら、一つひとつ試して自分にぴったりのガットやテンションを探し出すという作業を積み重ねてきました。

ガットは、テニスにおいて唯一ボールと接触する場所。ここに少しだけ意識を向けてみることで、いつも皆さんが楽しんでいるテニスがより一層深いものになり、プレーの質がグッと上がるかもしれない。そんなワクワクするような可能性が隠されています。

今回は、そんなプレーヤーの想いを技術で支えてくれるプロフェッショナルを訪ねました。私がアンバサダーを務めさせていただいている「ウインザーラケットショップ」のストリンギングのスペシャリストである斉藤さんにお話を伺いました。日々お客様の張り上げをこなす職人の目には、私たちのテニスをより輝かせるどんなヒントが映っているのでしょうか。

プレーを陰で支えるストリンガー

ー斉藤さん、今日もお忙しそうですね。私がお邪魔するときは、いつも斉藤さんがこの場所でガットを張っていらっしゃる印象があるのですが、実際ウインザーでは毎日どれくらいの本数を手がけているのでしょうか?

斉藤さん:よく言われます(笑)。お客さまからも「いつも端っこで張っていますね」と声をかけられるんですよ。本数で言うと、ウインザー全体ではおそらく世界で一番張っているのではないかという自負があります。お店には毎日毎日、本当に多くの依頼が来ますから。テニスもバドミントンも含めて、張り替えだけで毎日何十本と来ますし、新しくラケットを購入される方の分も合わせると、相当な数になりますよ。

ーその一翼を斉藤さんが担っているのですね。斉藤さん個人では、1日にどれくらい担当されるのですか?

斉藤さん:営業時間中だけで、十数本は常に張っていますね。でも、春先などの混み合う時期になると、それでは間に合わない。朝7時くらいに一人で出勤して、開店前の静かな店内で黙々と張ることもあります。

「3ヶ月」という定説は本当?

ー沢山のテニスプレーヤーの方のガットを張ってきて、「張り替えの傾向」などは見えてくるものですか? どうしても「切れるまで」使い続けてしまう方も多い気がして。

斉藤さん:そうですね、傾向ははっきりしています。特に春のシーズンは「ラケットを新調してガットを張る」という方が多い。その方たちが「そろそろかな」とメンテナンスに来られるのが、ちょうど半年ほど経った8月や9月頃なんです。

ーよくガットは3ヶ月に一回張り替えましょう、と聞きますが、やはり3ヶ月で変えるのは、一般のプレーヤーにはハードルが高いのでしょうか。

斉藤さん:理想は3ヶ月です。部活動などで毎日ガシガシ打つ方なら、本当は1ヶ月に1回は変えてほしい。でも、親御さんからすれば「切れていないのにもったいない」というお気持ちもよく分かります。ですので、最初は半年くらいから始まり、上達してスイングスピードが上がるにつれて「半年だと打球感が変わりすぎる」と気づき、3ヶ月周期に短くなっていくのが一般的なステップですね。

【なぜ「切れていなくても」変えるのか】 
ガットは張った瞬間から劣化(テンションロス)が始まります。ゴムが伸び切ってしまうのと同じで、古くなったガットはボールを弾き返す力を失います。これではガット本来の力を発揮することができません。無理に飛ばそうとすることで、プレーヤーの肘や手首に負担がかかるリスクもあるのです。


元のガットは大切な判断材料

ー学生の方や、ガシガシとハードに打つ方の場合は、やはりガットが切れてから張り替えに来るというケースが多いのでしょうか。

斉藤さん:それが、最初の1回目や2回目くらいの張り替えだと、まずは切れていない状態で持ってこられる方が多いかなと思います。もちろん、続けていくうちにスイングスピードが速くなれば、切れるようにもなってくるのですが。特に女の子の場合は、滅多に切れた状態で持ってくる子はいませんね。

ーそうなると、切れていない中で「次の一本」をどう選ぶかが、すごく大事になってきますね。

斉藤さん:まさにそこなんです。ガットは切れていないけれど「とりあえずポリ(ポリエステル)にしてみたい」「もっと耐久性がほしい」「パワーがほしい」といった、様々な要望を持って皆さんは来られます。その際、私たちは単に要望を聞くだけでなく、実際の糸の状態をじっくり観察します。

ー具体的には、どのようなポイントを見ているのですか?

斉藤さん:糸の表面にどれくらい溝が入っているか、本当に使い込んでいるのか。そして、前回張った日付も確認します。例えば、「耐久性がほしい」と言いながら、今張っているのは非常に柔らかいマルチフィラメントの糸で、しかも溝もそれほど入っていない……という方もいらっしゃいます。そうなると「実はそれほど耐久性を追い求めなくても大丈夫なんだろうな」と判断できます。逆に、ポリを張っていてもすぐに切れてしまう子もいますしね。

ー人によって、状況は千差万別なのですね。

斉藤さん:あとは「どこが切れているか」も重要です。当たり所が悪くて切れている場合は、それは糸の耐久性の問題ではないよ、と説明することもあります。

ーそれは、ガットの切れ方を見るだけで分かるものなのですか?

斉藤さん:はい。例えば、一週間でガットが切れたから「次はもっと切れない強い糸にしてください」と相談されることがありますが、切れている場所がフレームに近い「角」の部分だった場合。これは「角切れ」といって、糸同士の摩擦などは全く関係ありません。ある程度スイングスピードがある方が、角の部分で引っ掛けて打ってしまうと、たとえ新品でも一発、二発で切れてしまうことがあり得るんです。

ー一発で! それはショックですね…

斉藤さん:ならないに越したことはないのですが、この場合、糸を太くしたからといって解決するわけではありません。そういったメカニズムも、丁寧にお話しするようにしています。

ストリンガーの本音は「切れた状態のまま見せてほしい」

ーそう伺うと、ストリンガーの皆さんは、切れた後の無残な姿をむしろ見たいと思っていらっしゃるのでしょうか。

斉藤さん:そうなんです。「どう切れたか」「どこが切れたか」を見たい。よく気を利かせて、ガットを全部切って抜いて、フレームだけの状態にして持ってきてくれる子もいるのですが、正直に言うと、抜かないでくれた方がいいな、というのが本音です。

ーあ、良かれと思って抜いてしまうのは逆効果なのですね。

斉藤さん:そうですね。もちろん、切れた箇所を放置するとフレームに歪みが出ることもあるので、一本切れたらバッテンに切っておくのは良いのですが、完全に抜いてしまうと、私たちには情報が何もなくなってしまいます。

ー「ここで切れました!」という証拠を提示するような感じですね。

斉藤さん:全部抜いてしまっていると、私たちがアドバイスをしようにも、ご本人の感覚だけが頼りになってしまいますから。あまりにも情報がなさすぎて、推測が難しくなってしまうんです。

(後編インタビューへつづく)


斉藤さんのお話を伺って何より驚いたのは、ストリンガーというプロの目が、一本のガットからこれほどまでに多くの情報を読み取っているのか、ということです。

私たちはつい「消耗したから張り替える」という作業として捉えてしまいがちですが、斉藤さんはガットの表面に残った溝の深さや、破断した場所のミリ単位の違いから、プレーヤーの現在の課題を客観的に分析しています。

自分一人の自己分析では、どうしても「パワー不足かな?」「耐久性が足りないのかな?」と感覚的な判断に偏ってしまいます。しかし、プロにガットの状態を診てもらうことで、自分では気づけなかった「スイングの癖」や「打点のズレ」といった、全く別の視点から自分のプレーを再確認することができるなと思いました。

さて、次回の後編では、いよいよ皆さんが最も悩む「テンション(張る強さ)」の正解、そして自分にぴったりのガットを見つけるための具体的なヒントを深掘りします。
自分のプレースタイルをさらに輝かせるための「次の一手」を、一緒に探していきましょう。

それでは皆さん、良いテニスライフを♪