「決勝戦は嚙み合わずに悔しい結果ですが、この2週間で少しは賢いテニスができるようになってきたと思います」そう顔を上げるのはシカゴ・チャレンジャーで準優勝した清水悠太だ。この結果からATPランキングは252位から203位へジャンプアップ。今季の一つの目標としていた全米オープンの予選入りをほぼ確定させた。
決勝で対戦したアメリカの18歳、アレックス・ミシェルセンは昨年のウィンブルドンJrダブルスの覇者だ。193cmの体格を活かしたサービスやフォアーハンドを駆使し、今大会の準々決勝では錦織圭を倒してきた。そのミシェルセンに対し、身長30cmの体格差を埋めるように清水は精密なコントロールショットで組み立てていく。静かなガッツポーズは内に秘める熱を表し、華麗なドロップショットは相手を翻弄した。
清水にとって今回の北米遠征はまさに正念場。目標とする全米予選入りを確定させるためにも「少しでもいいからポイントを稼ぎたかった」と話す。「本当は全米出場だけを狙うなら、アジアを周っても良かった。」と些かスケジューリングに悩んだことを打ち明けながらも、この地を選んだ理由は一つ。グランドスラムに出場するだけでなく、予選を突破して本戦で勝ち上がれる選手になるため。アジアよりレベルの高いアメリカ本土での戦いに挑んだ。
その決意は奇しくも復帰を果たした元世界4位、錦織圭のスケジュールと重なることになる。
「錦織くんは、ちょくちょく気にかけてくれて、人柄もよくて・・・」
その一言から悔しそうな表情が一変、緩やかに口角が上がっていく。錦織とはシカゴ・チャレンジャーの前週に開催されたブルームフィールドヒルズ・チャレンジャーから、何度か練習を共にしてきた。その経験は清水曰く「試合と同じくらい重大なこと」だと語る。
24歳の清水にとって10歳年齢の違う錦織は、プロへの憧れを引き立てた存在だ。清水が15歳で初の全国制覇をした頃、錦織は全米で準優勝を果たしている。その名選手を目の前に「最初はすごく緊張した」と恥ずかしそうに笑みを浮かべながらも、「元世界4位の根拠」というものをはっきりと体感できたという。
「錦織くんは、非常に前に入ってくるのが速いです。チャンスを逃さない」
肌で感じる錦織のテニスに、これまでにないトップレベルとの差が何かを感じ取れた。「僕の場合、まだチャンスを逃しているときがある。錦織くんからは、もっとサービスゲームで攻めた方がいい。その方が怖いとアドバイスをもらえました。」
高いテクニックに一目置かれる清水も、錦織の勝負際の細かな判断に深く耳を傾けた。また錦織のIQテニスに組み込まれているドロップショットの使いどころは、間近で試合を見続けることで分かってきたという。実際に「いつもだったら取りきれなかったシーンでも、危なげなくゲームが取れたり、良いリズムが作れた」と今大会を振り返っている。
チャレンジャー大会を本格的に回りだせるようになった今年、勝負の要となるサーブリターンは以前より工夫できるようになってきた。「このレベルでも、サービスゲームさえしっかりキープできれば簡単に負けない」という手応えに加え、錦織に「ボレーが上手い」と褒められたネットプレーを組み合わせ、戦術もよりシンプルに変化してきている。
今後の鍵となるのはリターンの精度だろう。準決勝で対戦したムペシ・ぺリカード(フランス)の高速サーブに対し、決勝のミシェルセンは清水に対し弾むスピンサーブを多用。「そのギャップに対応しきれなかった」と悔しさをにじませながら「ブロックリターンやポジションの変化を使えるようにはなってきた」返球率と攻め時の天秤を見計う工夫はできたという。これもリターンのスペシャリスト錦織との練習から吸い取れたものがあった。
また北米遠征に励んだ期間、ウィンブルドンでは2つ年上の島袋翔がグランドスラム初出場で予選を突破。先月の全仏では同じ練習拠点の加藤未唯がミックスダブルを制覇し「とにかくそのすべてが刺激になっている」と熱は高まるばかりだ。
プロ転向6年目で辿り着いた現在地。そしてジュニア時代にダブルスで準優勝した全米オープンへ、清水にとってエキサイティングなシーズンが続きそうだ。