serena_williams120708.jpgロンドン郊外で開催中のウィンブルドン選手権で、7月7日に女子決勝が行われ、第6シードのセリーナ・ウィリアムズが、第3シードのアグニエシュカ・ラドワンスカを6-1、5-7、6-2で破り、2年ぶりに同大会を制した。セリーナにとってウィンブルドン優勝は5度目。ラドワンスカはポーランド人選手として初の優勝を目指したが、一歩届かなかった。


※写真は2年ぶり5度目の優勝を果たしたセリーナ
またこの結果、来週月曜日発表の世界ランキングで、ラドワンスカは自己最高の2位に達することが決定。1位には、今大会ベスト4のビクトリア・アザレンカが返り咲く。
セリーナはバックの強打をオープンコートに叩きこんだ瞬間、背中からゆっくりと芝の上に倒れ、両手で顔を覆った。2年ぶりのウィンブルドン優勝。だがその2年前から今日に至るまで、足のケガや肺栓塞に苦しめられた苦闘の日々を過ごしてきた。「カウチに座ったまま2日間部屋も出ず、塞ぎこんでいたときもあった」。そう打ち明けるほど精神的にも落ち込んだ時期を乗り越え、再び戻ってきた栄光の舞台である。
そのセリーナと決勝で対したラドワンスカは、これまでグランドスラムではベスト8が最高ながら、今大会で準々決勝の壁を突破すると、一気に決勝のステージへ。小柄ながらも繊細なタッチと多彩なショットを誇り、それらの武器を用いてチェスのように相手を追い詰めながら、並み居る強打自慢を打ち破ってきた。
パワーテニスの旗手であり、今大会での完全復帰を狙うセリーナ。女子テニスきっての戦略家であり、初の大舞台に挑むラドワンスカ。女子決勝は、キャリアの背景もプレースタイルも大きくことなる実力者が、それぞれの歴史と信念を掛けてぶつかり合う熱戦となった。
そのような経緯を考えたとき、ラドワンスカが立ち上がりは「ナーバスだった」のは当然だろう。対するセリーナには、パワーでねじ伏せてやろうという強引さは見られず、むしろラドワンスカの巧妙さにも心を乱すことなく冷静に我慢強く戦っていた。長いラリーでボールを返しながら、確実にポイントを奪える機を狙う。相手を撹乱したいラドワンスカだが、セリーナの安定したプレーが予想外だったか、むしろ先にミスを犯しポイントを失っていった。
だが、第1セットをセリーナが取ったところで挟んだ雨による中断が、ラドワンスカに立て直す時間を与えた。一方のセリーナは「何故か分からないけれど不安にかられ、もっと攻撃的に行こうとした」という。その、恐れを背景とした攻撃的姿勢こそ、ラドワンスカが待っていたものだ。芝を低く滑るスライスを多様してセリーナの体制を崩し、相手のミスを誘発する。あるいは虚を突くドロップボレーなどで、相手の精神に揺さぶりをかける。第2セット中盤以降はラドワンスカが狙い通りのテニスを推し進め、このセットを取り返した。
ラドワンスカに傾き始めた、栄冠への潮流。だがそれを自分へと引き寄せたのは、再び取り戻したセリーナの冷静さ、そして誰にも止められぬ時速200キロのサーブだ。セット序盤からラドワンスカのサービスゲームにプレッシャーをかけ続け、そして第4ゲームではエース4本を連ね49秒でのゲーム奪取。このゲームがセリーナに勢いを与え、ラドワンスカに精神的な圧力を加えた分岐点となる。以降セリーナは2度のブレークに成功し、特に第7ゲームのブレークポイントでは、相手のお株を奪う圧巻のドロップショットも沈めてみせた。このときこそが、勝利を確信した瞬間だったと言うセリーナは言う。
 
表彰式で2年ぶりに優勝プレートを手渡されたセリーナは、プレートを愛おしそうに抱くと、まるで少女のように飛び跳ね自慢するかのように高々と掲げた。ファミリーボックスでは姉のビーナスが見守る中、その姉と並ぶ5度目の優勝を手にした妹は、「だって私はいつだって、ビーナスの持っている物はなんでも欲しかったんだもの」と無邪気に笑う。30歳での優勝ながらも「私は、いつも12歳の気持ちでコートに立っている」というセリーナ。その言葉を体現するかのような仕草と笑顔であった。