
ATP500「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス」が、有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コートにて9月24日~9月30日(本戦)に開催されている。6日目となる29日は車いすテニス決勝、シングルスとダブルスの準決勝が行われた。
車いすテニス決勝には、全米オープンで優勝して生涯グランドスラムを達成した世界1位の小田凱人(東海理化)が登場。第2シードで19位の荒井大輔(BNPパリバ)に、6-0、6-0で勝利して3連覇を達成した。
有明のセンターコートは月曜日の11時から始まる試合でありながら、約半分ほど埋まった。トーナメントディレクターの国枝慎吾氏は「世界を見ても、ここより集まる大会はありません」と胸を張る。レジェンドの国枝氏が車いすテニスの認知度を上げ、それを受け継ぎ世界1位となった小田がいる日本は、確かに車いすテニスに親しむ機会が多い国だろう。
最も大きなスタジアムで車いすテニスの決勝が行われることが、「当たり前ではないこと」だと世界を転戦する小田は認識している。だからこそ、この舞台にかける思いは強く、「自分の強さを見せる」と決めていた。そのための準備は十分にしてきている。

対戦相手の37歳の荒井は、小田が岐阜でテニスを始めた頃から知る先輩。全米オープン前にも一緒に練習をしている。そんな荒井でも、「あそこまでリターンできないとは思っていなかった」と予想を上回るサービスであったことを認め、さらに自身のファーストサービスが入っていた最初の2ゲームで、思った以上にリターンエースを奪われたことにも驚いていた。
荒井は「有明のセンターに持って来たなという感じです」と、小田のこの大会にかける気合を感じ取っていた。そして、自身のプレーについては「大きい舞台でもいいパフォーマンスができるように意識していかないといけないと思う」と、大勢の観客の前でプレーできることを喜びながらも、反省の弁を口にした。

優勝までの道のりで、1ゲームしか落としていないスコアから小田の強さは証明されている。試合内容でも、相手の嫌がるコースにサービスを入れて3球目にエースを取ることも多く、リターンエースも披露。加えて、ドロップショットや豪快なスマッシュも決めて、会場からも大きな拍手が起こっていた。小田凱人の強さは存分にアピールできた。しかし、小田はまだまだ満足していない。
「いずれはATPの選手に勝ちたい」と言い、大会についても「いつかは、『車いすの方が盛り上がってね?』っていうのは現役中に叶えたい」との野望を明かす。「リスペクトしているからこそ超えたい。テレビで話題の選手を見ても超えたいと思う。素で悔しいと思える。この気持ちがなくなったらダメだと思う」と、車いすテニス界のトップは広い世界を見ている。
彼の野望を、大会期間中に新会長とアドバイザーの就任会見を行った日本車いすテニス協会はサポートできるのだろうか。小田に協会に期待することを聞いてみると、「国枝さんに日本代表コーチになってほしいです」と、現実味のありそうな答えが返ってきた。トップ選手とレジェンドコーチのタッグが実現すれば、面白いことが起きそうだ。

男子ダブルスにワイルドカードで出場し、快進撃を続けるR・ボパンナ/柚木武組が、第1シードのC・ハリソン/E・キング組を、大接戦の末に破り決勝進出を決めた。ファイナルセットの10ポイントタイブレークで柚木は、1人だけ経験が浅いにもかかわらず、相手のマッチポイントで時速234キロのサービスを放ってしのぐと、その後もリターンで積極的に攻めた。6本目のマッチポイントで、柚木のセカンドサービスを相手がネットし、初のツアー決勝進出を果たした。
拳を突き上げて観客の歓声に応えた柚木は、「明日、239キロ以上出すので、ぜひ応援に来てください!」とアピール。239キロは2回戦で出した自身最速サービスだ。柚木は2018年マクラクラン勉以来の日本人優勝を狙う。ちなみにボパンナは2013年に決勝で対戦するE・ロジェバセランと組んで優勝している。
ボパンナは決勝で勝利するポイントとして、「アグレッシブなテニスをしなくてはいけない。今までもそれが勝利に導いてくれたから。相手は経験豊富な選手だから、観客の応援、ホームコートのアドバンテージを使っていきたい」。柚木は「ローハンと組んで1つでも多くの試合がしたいという気持ちでした。明日は楽しく、思い切り出来たらと思う」とコメント。初の決勝で持ち味を存分に見せてほしい。


男子シングルス準決勝は、第2シードのT・フリッツのサービスの調子が良く、6-4、6-3でJ・ブルックスビーに勝利。明日の決勝については、「どちらと対戦するにしても攻撃的なプレーをしなくてはいけない。カルロス(アルカラス)との対戦の場合は、より早く攻撃しなくては先にやられてしまう可能性がある」と警戒している。


もう1つの準決勝は、C・アルカラスが今大会で初めてセットを落とすも、C・ルードに逆転勝利して決勝進出。これで9大会連続で決勝に進出という、ラファエル・ナダルの記録に並んだ。「ラファの記録に並べたことはすばらしいこと。モンテカルロからベストのテニスができている。まずは明日の試合に集中していきたい」。
フリッツとの対戦については、「安定感があり攻撃的なプレーをするし、今は自信を持っているから難しい相手。まずはプランAを考えて実行していきたいと思う」と、初日にフリッツと練習できたことがプラス要素になると考えているようだ。
アルカラスとフリッツが勝ち上がったことで今大会では、2011年のA・マリー対R・ナダル以来となる、第1、2シードによる頂上決戦となった。調子を上げている両者による白熱した試合が期待できそうだ。
【9月29日月曜日の結果】

■車いすテニスシングルス決勝■
〇小田凱人(東海理化)[1] 6-0 6-0 ●荒井大輔(BNPパリバ)[2]


■車いすテニスダブルス決勝■
〇高野頌吾/モハマド・ユソフ(かんぽ生命/マレーシア)[1] 6-2 6-3 ●藤本佳伸/河野直史(GA technologies/ロイヤリティマーケティング)
■ダブルス準決勝■
○R・ボパンナ/柚木武(インド/イカイ)[WC] 4-6 6-3 18-16 ●C・ハリソン/E・キング(アメリカ)[1]
■シングルス準決勝■
〇T・フリッツ(アメリカ)[2] 6-4 6-3 ●J・ブルックスビー(アメリカ)[PR]
〇C・アルカラス(スペイン)[1] 3-6 6-3 6-4 ●C・ルード(ノルウェー)[4]
取材・文:赤松恵珠子、写真:伊藤功巳


