
ATP500「木下グループジャパンオープンテニスチャンピオンシップス」が、有明コロシアムおよび有明テニスの森公園コートにて9月24日~9月30日(本戦)に開催された。最終日となる30日はシングルスとダブルスの決勝が行われた。
シングルスの決勝は2011年A・マリー対R・ナダル以来となる、第1、2シードの対決となり、第1シードのC ・アルカラスが、第2シードT・フリッツに6-4、6-4で勝利して、今大会初優勝を飾った。

今年は世界1位のC・アルカラスが来日することで大会前から期待が高かったが、それを裏切らない決勝となった。火曜日の夕方6時から始まる試合にスタジアムはほぼ満席で、大きな拍手と声援で選手を迎えた。
屋根が閉まったスタジアムに、フリッツの時速200キロを超えるサービス音が響く。アルカラスも豪快なフォアで応戦し、ラリーになるとお互いが攻撃のチャンスを見つけては攻める。普通ならエースで決まりそうなボールにも追いつき返球するため、どちらのポイントになるのか最後までわからない。

フリッツがアルカラスと対戦する上で難しい点について「パワーだけでなく、タッチもありドロップショットも扱える。こちらが攻撃した際、相手にうまく返されたらそれが帳消しになるぐらいだけど、彼の場合は武器にして返してくる能力がある」ということを挙げた。
まさに、その評価の通り、意表を突くタイミングでのドロップショットやサーブ&ボレー、驚異の脚力でボールに追いついての反撃と、プレーがバラエティに富んでいる。第1セットでのファーストサービスの確率が54%と悪かったが、他でカバーできるオプションが色々とあるのだ。2人ともが「ハイレベルな戦いだった」と口を揃えた第1セットをアルカラスが6-4で取った。

第1セット後、フリッツはトレーナーを呼んで、左足の太ももをケアしてもらう。その影響もあってサービスの確率も下がり、アルカラスが5-1とリードする。その後フリッツに5-4と追い上げられるが、次のゲームでドロップショットを3本も決めて優勝を果たした。
アルカラスは1回戦で足首を痛めるアクシデントがあり、その苦しい状況をチームのサポートによって乗り越えての優勝に、喜びもひとしおのようだった。
また、日本のサポートにも感謝しており、優勝スピーチでは「ホームのようだった」「この1週間戦えたのはみんなの大きな声援があったから」と、感謝の言葉を続け、「できれば近いうちに、来年にでも戻って来たいという気持ちにさせてくれた」という、うれしい言葉も飛び出た。ぜひともアルカラスが作り出す楽しい試合の雰囲気を来年も見せてほしい。

ダブルスでは、日本の柚木武が45歳で元ダブルス世界1位のR・ボパンナとのペアで決勝に進出。残念ながら、第2シードのH・ニス/E・ロジェバセラン組に5-7、5-7で敗れたものの、ワイルドカードでの出場で準優勝という結果を出した。
日本代表の添田豪監督にボパンナからパートナー紹介の依頼があり、柚木が推薦されたことでペア結成となった。柚木は世界ランク112位で今大会前はツアーでの勝利はない。大会序盤はボパンナのリードとプレーに助けられている部分が多く、本人も「恩師みたい」と言うほどだった。
勝ち進むにつれて柚木は目に見えて成長していく。決勝では意識している「強気でいく」プレーが随所で発揮され、重要なポイントでリターンエースを奪い、ピンチの時にはサービスでフリーポイントが取れていた。加えて、「前衛での存在感」も出せており、ボレーやスマッシュを決める機会も増えた。
今までの試合と違い、ボパンナが精彩を欠いていたが、柚木がそれをカバーできるほど成長していた。まるで大会序盤の柚木とは別人のようである。ただ、相手ペアはダブルス巧者らしく、簡単に崩れてはくれない。少しのスキを突かれて、優勝には届かなかった。

「準優勝で悔しいと思えるのはいい成長だと思います」と柚木。決勝戦は敗れたが、この1週間は柚木のキャリアに大きなインパクトを与えたことは間違いない。「しっかり3回勝って決勝にこれたということは、今後の僕の人生においてもかなり成長につながる勝ちだと思う。感情で一喜一憂しないというか、冷静に試合ができているのは成長できているのかと思いました」。プレーとメンタル面の両方での成長を実感できている。
「全豪オープンに出られるランキングにすることを考えて、チャレンジャーにも出ますが、ATP250のエントリーを含めてアンテナを張っていこうと思います」。今回の結果で柚木は86位になる予定だ。ランキングが上がれば戦いの舞台も変えることができる。日本代表に必要とされている196センチの大型ダブルススペシャリストが、頼りになる存在となる日も近いだろう。
【9月30日火曜日の結果】

■シングルス決勝■
〇C・アルカラス(スペイン)[1] 6-4 6-4 ●T・フリッツ(アメリカ)[2]

■ダブルス決勝■
○H・ニス/E・ロジェバセラン(モナコ/フランス)[2] 7-5 7-5 ●R・ボパンナ/柚木武(インド/イカイ)[WC]
取材・文:赤松恵珠子、写真:伊藤功巳


