ロンドン郊外で開催中のウィンブルドン選手権は5日に男子準決勝2試合を行い、第1シードのノバク・ジョコビッチがファンマルティン・デルポトロを、第2シードのアンディ・マリーがイエジ・ヤノビチをそれぞれ退け、決勝進出を決めた。
ウィンブルドンの歴史に、新たな記録が刻まれた。ジョコビッチ対デルポトロの激しい打ち合いは、4時間43分の大熱戦の末にジョコビッチが7-5、4-6、7-6(2)、6-7(6)、6-3で勝利。この一戦は、大会史上最長の準決勝戦となった。
立ち上がりから、試合の流れがどちらに傾くか予断を許さぬ、緊迫の展開だった。世界1位のジョコビッチの強さの源泉は、攻守ともに全くと言って良いほど穴がない、総合力の高さにある。恐るべき柔軟性を生かしてあらゆるショットにラケットを伸ばし、しかも攻守が一体となったカウンターは、瞬時に危機を好機に入れ替える。第1セットは互いにミスがほとんど無い互角の展開から、ジョコビッチがゲームカウント6-5から抜け出し先取した。
だが、昨年のロンドンオリンピックでジョコビッチを破っているデルポトロは、自信を胸に第2セット以降さらに調子を上げてくる。今大会の3回戦、そして2日前の準々決勝でも転倒し痛めたデルポトロの左ヒザには、痛々しいほどに厳重なテーピングが巻かれていた。しかし故障の影響を全く感じさせない軽快な動きで左右に走り、長身を生かした高い打点から、ボールを粉砕するかのような強打を次々叩き込んだ。
ジョコビッチはスピンを効かせたショットをコーナーに打ち分けるが、デルポトロは長いストライドを生かし追いつくと、コートの数メートル後方からでもフラットにボールを打ち返す。普通ならネットに掛かる球の軌道も、198cmのデルポトロが放てば、ネットスレスレを超える究極の武器となる。
「彼(デルポトロ)がフォア・バックから放つフラットには、賛辞以外の言葉がない」世界1のフットワークを誇るジョコビッチも、見送る以外に何も出来ないショットが何度もコートをえぐった。第2セットは、3-3から抜けだしたデルポトロが奪い返した。
第3セットは、お互いにサービスゲームを全てキープしタイブレークに。このセットでジョコビッチは3度のブレークポイントを掴まれたが、この日の彼の生命線は、測ったようにセンターに決まる正確無比なサービス。タイブレークでは、その武器を生かしてデルポトロを突き放した。
第4セットのタイブレークは、両者の緊張が見る側にもヒリヒリと伝わてくる展開に。デルポトロが、ラリー中に「アウト」を主張してチャレンジするも、結果はインでポイントをジョコビッチに献上。これで流れが決したかと思いきや、ジョコビッチも5ポイント目で同じパターンでポイントを相手に献上する。それでもジョコビッチが6-4とリードし、2つのマッチポイントを手にするところまでやってきた。しかしここでも、デルポトロの右腕が火を吹きジョコビッチの鉄壁の守備を粉砕。最後はバックの強打2連続で、デルポトロが剣ヶ峰で追いついた。
第5セットも両者はがっぷり四ツに組むが、セットが後半に進むにつれ、徐々にではあるがデルポトロに疲れの色が見え始める。一方のジョコビッチは、動きにも表情にもまだまだ生気がみなぎっていた。ゲームカウント4-3からジョコビッチがついにブレーク。最後のゲームはデュースにもつれながらも、そのままゴールラインまで走りきった。
もう一つの準決勝のマリー対ヤノビッツ戦も、序盤はジョコビッチ対デルポトロを彷彿させる展開となる。ヤノビッツが時速230キロを超える高速サーブを連発し、ラリーでも2メートルの長身から叩きつける鋭角のフォアでマリーを圧倒。
第1セットはタイブレークの末にヤノビッツ。第2セットはマリーが奪い返すが、第3セットではヤノビッツが序盤にブレークし、3-0とリード。サーブが目を引くヤノビッツだが、実はドロップショットやロブなどの小技も得意とする。ヤノビッツはそれらのショットも駆使してマリーを手球にとり、試合の主導権を握りかけていた。
だが、圧倒的なコートカバー能力を誇るマリーの前に、ドロップショットが何度も決まるはずはない。徐々にマリーがあらゆるショットに適応し始め、試合の主導権を奪い返す。第3セットの終盤は、マリーが5ゲーム連取で逆転。第4セット開始前には、屋根を閉じ照明をつけるために約20分の中断を挟んだが、マリーに傾いた流れが変わることはなかった。6-7(2)、6-4、6-4、6-3で、マリーが2年連続の決勝進出を決めた。
これで決勝戦の顔合わせは、通算5度目のジョコビッチ対マリーの顔合わせに。この2人は、誕生日が僅か1週間しか違わぬ同期で、互いの存在を10歳の頃から知っているライバルだ。昨年の全米オープンでマリー初めてグランドスラムタイトルをつかんだ際も、ネットを挟み立っていたのはジョコビッチだった。
7日の決勝戦、マリーは母国イギリスの期待を一新に背負い、悲願のウィンブルドンタイトルに挑む。その相手として、ジョコビッチ以上に相応しい選手は居ない。
写真は、ウィンブルドン決勝に進出したジョコビッチ
Photo by Hiroshi sato