アンディ・マリー(テニス)ロンドン郊外で開催中のウィンブルドン選手権は7日に男子決勝戦を行い、第2シードのアンディ・マリーが、第1シードのノバク・ジョコビッチを、6-4、7-5、6-4で破り、同大会初優勝を成し遂げた。マリーは昨年の全米オープンに続く、自身2つ目の四大大会タイトル獲得。またこの優勝でマリーは、フレッド・ペリー以来77年ぶりに同大会を制したイギリス人男性選手となった。

“77年ぶりのイギリス人優勝者”になるためには、4つのマッチポイントを必要とした。2セット連取で迎えた、第3セット。セットカウント、5-4とリードしたマリーが、自らのサービスゲームで順調にポイントを重ね、40-0と勝利まで1ポイントに迫っていた。

だがジョコビッチは、イギリスの宿願を簡単には成就させてくれない。完璧なボレーを皮切りに、4ポイント連取でブレークポイントを握る世界1位。マリーの圧倒的優勢は動かないものの、不安と焦燥がセンターコートに漂いはじめていた。

しかしマリーは、引き下がらない。最初のブレークポイントをサーブで凌ぐと、その後も2度ジョコビッチにブレークポイントをつかまれるが、いずれもミスを恐れぬ攻撃で脱してみせた。4つ目のマッチポイントは、驚異の脚力でドロップショットに追いつき切り返した、フォアハンドの鮮やかなウィナー。

そうしてついに訪れた、イギリス人王者誕生の時。

試合直後のマリーは「最後のポイントはどうやって決まったか、覚えていない」と苦笑いした。果たしてそのポイントとは、ジョコビッチのバックハンドから放たれたボールが、ネットを叩いて決まったものだ。刹那、マリーはラケットをその場に落とし、茫然自失の体で頭を抱えた。ジョコビッチと抱擁を交わし、ファンの歓声を浴びてコートの中央まで歩み出ると、そのまま膝を落としてうずくまり、芝に顔をうずめて涙を流した。試合時間3時間9分。3セットで終わったとは思えぬ試合時間の長さが、その道程の険しさを示していた。

終わってみての結果論になるが、今大会の決勝戦は、77年ぶりのイギリス人王者を迎えるためのお膳立てが整っていた。大会を通じて肌寒い日が続いたウィンブルドンだが、昨日から突如として気温が上がり、決勝戦当日は30度超え。気象条件は全ての選手に平等だが、過酷な条件下で体力に不安を覚えたのは、2日前の準決勝で4時間44分戦ってたジョコビッチだったろう。決勝戦のジョコビッチはいつもよりネットに詰める回数が多く、ドロップショットも多用していく。明らかに、ラリーを短く終えたがっているように見えた。

だが、ツアー1、2の脚力とカウンターを誇るマリー相手に、慣れないスタイルを取るのは得策とは言い難い。ドロップショットは再三切り返しの餌食になり、ボレーも少しでも甘くなると、パッシングショットでの失点を招いた。中でも象徴的だったのが、第3セットでジョコビッチがブレークを許した2つのゲーム。いずれも、ドロップショットを返され決められたのをきっかけに、マリーに流れを引き渡した。

「ボレーもドロップショットも、あまり上手く行かなかった。今日の僕は、我慢が足りなかった」

試合後、戦略ミスを認めるジョコビッチ。同時に準優勝者は「重要な局面で、彼(マリー)の方が良いプレーをした」と、ライバルのプレーを素直に称えた。

「何が起きたのか、まだ信じられない」

試合終了から1時間ほど経ったにも関わらず、マリーは自分が成し遂げたことの大きさを把握できずにいた。

「理解できるようになるには、まだしばらく時間が必要だと思う」

昨年は地元ロンドンでオリンピック金メダルを獲得し、全米オープンでも優勝した世界2位が、頭が真っ白になり、感情を言葉に出来ずにいる。その姿こそが、彼の成し遂げた偉業の大きさを物語っていた。

※写真は、フレッド・ペリー以来77年ぶりにウィンブルドンを制したイギリス人男性選手となり、トロフィーをかかげるアンディ・マリー
Photo by Hiroshi sato