ニューヨークで開催中の全米オープンは30日に女子シングルス3回戦などを行い、奈良くるみが第9シードのエレナ・ヤンコビッチと対戦。第2セットでは、一時は5-2とリードする健闘を見せるものの、4-6、6-7(5)で敗退した。
「彼女は信じられないほどスピードがある。どんなに打っても全てのボールが返ってくるし、とても攻撃的でもあった。彼女は若いし将来性がある。上位陣にとって、危険な選手になると思うわ」
試合後のヤンコビッチのこの言葉に、リッピサービスや誇張は無いだろう。5年前の世界1位が、予選上がりの小柄な選手に第2セットは大きくリードを許したのだ。彼女の苛立ちや「こんなはずではない」との思いは、追い詰められたような表情や、ミスした後に上げる金切り声となって表層化した。
世界12位の第9シードをそこまで苛立たせたのは、攻撃的で多様性に富み、なおかつミスが少なく精度の高い奈良のプレー内容にある。
「攻撃的に行こうとは思いながらも、相手は粘り強い選手なので、攻めすぎて精度を下げることはないようにと考えていた。でも第2セットに入ってからは、できるだけ前に入って、相手にプレッシャーをかけようと思った」
第1セットはストロークで互角に渡り合い先にブレークするも、ベースラインの打ち合い、そして勝負どころの決定力で、相手に上回れ落としてしまった。第2セットはその反省を踏まえ、奈良はより深く踏み込み攻めに出た。ゲームカウント2-2の相手サービスゲームでは、リターンを深く返すやネットにつめ、浮いた返球をスイングボレーで叩きこみブレークに成功。ドロップショットを沈めてはヤンコビッチを慌てふためかせ、押し込まれた際には中ロブを深く返して攻め急ぎを誘う。奈良の攻撃的なプレーにつられるようにヤンコビッチも前に出るが、鮮やかなパッシングショットでウイナーを奪っていった。ヤンコビッチはその度に、呆然とボールの行方を目で追うのみ。
「前にも出たけれど、全部抜かれた気がするわ」
元女王は、そう試合後に苦笑する。
しかし奈良が追い詰めるたび、ヤンコビッチは、プレーの精度を上げて反撃に出た。奈良は攻撃的姿勢を崩さないが、ボレーがネットに掛かったり、決めに行く強打がアウトになる場面が増えていく。
「あの場面で弱気なプレーをしていてはダメだし、前に入る姿勢だけは崩さないで行こうと思っていた。その考えは間違っていなかったが、最後は少し疲れから足が動かなかったり、判断が遅れてミスに繋がった部分がある」
相手のマッチポイントでも攻め貫いた末に、最後はウイナーを狙ったかのようなバックの強打が、ネットを叩いた。一瞬、天を仰ぐ奈良。その後直ぐにネットに駆け寄ると、軽く頭を下げて握手を交わす。コートを去る奈良の背に、客席から万雷の拍手が送られた。
「あのようなショーコートで、試合を出来る選手になりたいと思います」
持ち帰った確かな手応えを糧として、悔しさを残したショーコートへの帰還を誓った。
※写真は、フォアハンドを打つ奈良くるみ
写真/佐藤ひろし