毎年10月、「全日本大学王座」が盛り上がる頃、理工系大学テニスの“王座”を争う、関東理工科大学テニスリーグも開催されていることをご存知だろうか。昨年度はコロナの影響で中止されたが、60年以上の伝統を誇るリーグ戦だ。そして、今年度の「理工リーグ」で、31年ぶりの1部優勝を目指しているのが慶應大の「矢上庭球部」だ。体育会のテニス部ではあるが、学業第一で義務練習はわずか週3回、しかも大学からテニスを始めた部員を多く受け入れている。そんな中で急成長して実績を残していける強さの秘訣を紹介したい。

慶應大「矢上庭球部」は理工リーグで活躍する体育会テニス部だ。

アカデミックな雰囲気の漂うテニス部

慶應大日吉キャンパスから徒歩5分、理工学部のある矢上キャンパス内に「矢上庭球部」はある。旧・藤原工業大学鍛錬部を前身としており、正式名称は、慶應義塾體育會矢上部硬式庭球部。80年以上の歴史があり、「リコタイテニス部」の愛称でも有名だ。

練習拠点は、元慶應義塾長・小泉信三先生の名言「練習ハ不可能ヲ可能ニス」が刻まれた石碑の立つ、矢上台テニスコート。ナイター照明付きの全天候型コート3面と壁打ちコートを使用している。シャワーやガット張り機、冷暖房などの設備をもつ専用の部室も使える上、テニスコートから大学校舎・図書館、コンビニ、食堂まではそれぞれ徒歩1分という好立地だ。

「練習ハ不可能ヲ可能ニス」という言葉が刻まれた石碑の立つ、矢上台テニスコート。

義務練習は週に3回、平日は約1時間、土曜日は2時間30分行う。学業への配慮から、定期試験1ヶ月前から義務練習は行われず、普段も学業上の理由があれば柔軟に欠席を認めている。

その立地と練習時間からもわかる通り、授業が特に多い理工学部の学生向けに設置された体育会テニス部ではあるが、海外トップ大学留学や司法試験など難関国家資格取得を目指す文系学生も多く在籍しており、その割合は全部員1/3にもなる。男子と女子の割合も2:1程度であり、英語を母語とする学生や入部時にはテニス未経験の学生も受け入れるなど、部員の多様性が特徴だ。

ジュニア時代から全国レベルで活躍していた選手は少数派であるが、こうした環境の中、2019年には男子が全13部ある関東理工科大学リーグの最高峰、1部で準優勝を果たした。また、女子も2018年に2部優勝を果たしており、1部昇格目前だ。理工テニスの早慶戦では、アベック優勝している。

2019年には男子が関東理工科大学リーグの1部で準優勝を果たしている。

そして2020年は、男子30年ぶりの1部優勝、女子の1部昇格がそれぞれ果たされるかと期待されたが、コロナの影響で無念のリーグ戦中止。快挙達成は持ち越しとなった。

牟田口恵美氏がコーチに就任

そこで、今年こそは快挙を達成するべく、昨年から元プロテニス選手である牟田口恵美氏が特別コーチを務める。OBOG組織である「慶應矢上庭球会」の支援を受けながら、牟田口氏の他にも10人以上のコーチング・スタッフが強化にあたる。

元プロテニス選手である牟田口恵美氏が特別コーチを務めており、コロナ禍にはオンラインでミーティングを積極的に行った。

コロナ禍でも、前主将の大羽優亮(理工・4年)、塚本眞子(理工・4年)らが中心となってオンライン・トレーニングの導入がいち早く進められ、牟田口氏による指導を全部員が自宅から受けられる体制が整備された。こうした取り組みについて、入学直後からキャンパスに通えない時期が続いた立麻友紀(経済・2年)は、「大学生活に不安があったが、矢上庭球部に入っていたからこそ先輩や同期と繋がり、すぐにテニスと勉学に向き合うことができた」と振り返る。牟田口氏も、「かっちりとした体育会テニス部なのに、状況の変化に柔軟に対応できる先進的なチームだ」と評価する。

大学体育会がCSR活動に取り組む先駆的事例へ

こうした柔軟な対応力が顕著に現れたのは、オンライン・トレーニングに限った話ではない。2020年の「理工リーグ」中止が決定した10月、すぐに取り組んだのは「日本テニス協会公認審判員資格」の取得だった。今、テニスを「する」ことができないなら、テニス界を「ささえる」ことに注力しようと現役部員が自発的に動いた形だ。その結果、受験した16名全員が認定試験に合格し、慶應大はテニス審判員の有資格者数でも日本一の大学となった。東京オリンピック・パラリンピック競技大会では、なんと部員のほぼ全員にあたる32名がテニス競技の運営スタッフに選ばれた。

日本テニス協会公認審判員資格に受験した16名が全員合格し、慶應大学は有資格者が最も多い大学テニス部となった。

そのほか、今年4月に行われたJPTT盛田正明杯でも、ボールパーソンなどの競技運営に取り組んだ。参加した百武葵(理工・2年)は、「オリンピック・パラリンピックに向けて、実際に運営する経験が大切。同じテニスでも、選手活動だけでは得られない気づきが多くあり、競技にも学問にもプラスだ」と話す。

JPTT盛田正明杯ではボールパーソンとして参加。プレーだけではなく色々な経験を積んでいる。

こうしたテニス界への貢献活動は、今後さらに拡大していく予定であり、具体的には、毎年春に主催している「理工オープンテニストーナメント」を拡大して、国際大会に繋がるジュニア大会の新設も検討する。主将の大倉和真(3年)は、「将来的に、テニス界を越えたCSR活動にも取り組み、大学スポーツが社会に貢献する先駆的事例となっていきたい」と語る。

コロナ禍にもかかわらず、今年も22名の新1年生が入部した。スポーツと社会を「ささえる」活動を通して、大学テニス部としての意義を高め、競技力と学術研究力の発展に繋げる。慶應義塾には、創立者・福澤諭吉による目的があり、全社会の先導者たることが掲げられているが、まさに「矢上庭球部」部員の姿勢はそれを体現しているといえよう。今後のさらなる飛躍に期待したい。

慶應義塾大学體育會矢上部硬式庭球部公式サイト

https://rikotaitenniskeio.wixsite.com/official-page

動画:慶應義塾大学體育會矢上部硬式庭球部イメージ動画「RESPECT」

部員一覧

大羽優亮(理工4)/秋慎太朗(理工4)/齋田衛 (理工4)/三浦怜之(理工4)/馬場智章(理工4)/中尾悠奎(経済4)/塚本眞子(理工4)/金咲也華(法4)/小西舞優(法4)

大倉和真(理工3)/小田怜(理工3)/笹澤駿斗(理工3)/瀬理大我(理工3)/松下雄太(理工3)/古川竜也(理工3)/古谷峻大(理工3)/黒沼柚花(理工3)/安井祐人(経済4)/藤原友宜(環境3)/発田志音(法3)/平林大河(法3)/西村茉那(文3)/西尾優人(経済3)/高田佳奈(商3)/田中さや花(法3)/堤康紀(経済3)/

信原海那(理工2)/跡部瑛都(理工2)/桶川連(理工2)/百武葵(理工2)/村上凌輔(理工2)/立麻友紀(経済2)/平野慎之助(理工2)/大野公暉(商2)/竹本大祐(商2)/齊藤七菜(理工2)/佐藤真弘(理工2)/熊代真幸(法2)/秋山佑律(理工2)/中村文哉(商2)/森音哉(商2)/渡辺琳太郎(法2)/菱沼志温(経済2)

木村瑶(経済1)/矢地江理彩(経済1)/名和陽也(理工1)/吉田雄哉(経済1)/河野怜(理工1)/松本怜子(理工1)/嶋田匠(理工1)/尾迫謙造(商1)/石橋青空(理工1)/片岡照瑛(法1)/山元唯(理工1)/関口大智(薬1)/関口樹(法1)/高橋幸樹(理工1)/和田暸雅(法1)/樋口祐一(経済1)/越元陽太(理工1)/横田捷(理工1)/川崎好太郎(商1)/吉田大洋(理工1)

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記事・写真:慶應義塾體育會矢上部硬式庭球部広報委員会