2021年女子テニスプレーヤーの集大成とも言える『WTAファイナルズ』が11月10〜17日までメキシコ・グアダラハラのパン・アメリカンスタジアムで開催される。本来なら中国・深圳で開催される予定だったが、新型コロナウイルスの影響で今年は見送られ、2020年から2030年は深圳に戻る予定だ。

グランドスラムに次ぐ大きな今年のポルシェ・レース・ランキングにおける、上位8名が出場可能な大会だが、そのダブルスにおいて、日本の青山修子(近藤乳業)/柴原瑛菜(橋本総業HD)が2位につけ、日本人同士のペアとしては、2002年の杉山愛/藤原里華以来、19年ぶりの出場を果たす。

今回、19年前の出場者である藤原里華さんにこの大会の魅力と、青山/柴原の持ち味などについて話を聞いた。

ーーツアーファイナルというのはどういう大会の位置付けで、出場した際はどのような雰囲気だったのでしょうか?大会自体のご説明をいただけますか?

「『WTAツアーファイナル』はグランドスラムに次ぐ大きな大会で、その年活躍したトップの選手のみ出場できる、名誉ある大会です。私は2002年に浅越(しのぶ)さんに声を掛けていただき、全豪オープンで初のグランドスラムに出たのですが、そこでベスト8に入りました。その後、杉山愛さんと五輪を目指し一緒に組むようになりました。

当時は目の前にどんどん大きな目標が現れ、その中でグランドスラムを戦う中で、この最終戦を目前にした秋に、リンツの大会を控えたタイミングで、ここで勝てばチャンピオンシップスに出られるかもしれないと、愛さんのチームとミーティングをしたときに言われ、初めて自分の立ち位置とチャンピオンシップスというのを知りました。

本当に急に目の前に出てきた大きい大会でした。私はまだ20歳だったので、とにかく急に出てきたゴールでした。

そして初めてステイプルズセンターに足を踏み入れた時に、これはもう、別異次元のレベルの違う大会なんだなということを体感したことを覚えています。照明も音響もNBAのスタジアムということもありまして、とてもかっこいい…という印象でした」

ーー最終戦だから味わえたVIP待遇は?

「望めば一人1台ポルシェが借りられました。でも私は当時免許も持っていなかったし、母も運転したことないということをお伝えしたら、運転してくださる方もついてくれて、それは素直に驚きました。とはいえ年末の大会なので、他の選手も身体がぼろぼろの中で戦っているんだなっていうのを感じつつ、戦いに臨んでいたという印象です。

観客自体はそんなに多かった印象はないのですが、私は会場で当時トップだったジェニファー・カプリアティ選手と練習でき、良い経験をしました。私は朝イチからコートにいるタイプだったので、早めに会場へ行っていたら、スタッフさんに声をかけられて練習しました。雲の上の存在でもあったし、オリンピックチャンピオンでもある偉大なプレーヤと打てたことは貴重で、ボールのパワー、そして深さなど、受けたことのないボールばかりで、わずか30分だったのですが、とても長く感じられました」

ーーツアーファイナルに出た時の感覚は、出られて嬉しいという感じでしたか?それとも優勝を狙いにいったとか?

「それまで愛さんに引き上げていただいたとはいえ、当時1位だったペアに勝っていたりしたので、もちろん自信にもなっていましたが、自分の体は正直ボロボロになっていて、手首もかなり痛みはありました。出場にあたっての心境としては、とにかくその場を楽しもうという思いでしたね。

『レディース&ジェントルマン フロムジャパン リカ・フジワラ!』とアナウンスされ、音楽もどんって流れ、照明が着いた瞬間に『今まで大変な道のりを歩んできたけれども、この興奮と緊張感でこの舞台に立つまでに今までの全てがあったのだな』と思いました。あの感覚を味わったのは、あれが最初で最後でした。

その初戦はものすごい身体が動いて、その動きすぎる身体をどうやったら止められるかというような感じでした。スーパーマリオのスター状態でしたね(笑)。調子が良すぎて走りまくっていたら、最後は愛さんがしっかりまとめてくださって勝てました。

逆に2回戦になったら私が我に返ってしまい(笑)もとに戻りました。色々な意味で、それくらい私の中では平常心ではいられないところでした。改めて考えると、コンディション的にはフレッシュではないですが、研ぎ澄まされたというか、最後にかける思いが集約されている、独特な緊張感がある大会でした」

2002年、杉山愛さんと最終戦出場を果たした藤原里華さん(C)Hiroshi Sato

ーー今改めてこの大会に出場した価値というのはどのように感じますか?

「愛さんと私以降、19年日本人同士のペアとしては出てこなかったということを考えると、難しいことであり、名誉のあることをしたのだなというのは、年々重みとして感じられるようになりました。

青山/柴原ペアは私が1年で急上昇して出場できたという状況とは全く違って、優勝や、ペアとして難しい負けも確実に積み重ねての出場権獲得なので、私と状況は全然違うと思います」

ーー青山/柴原ペアが日本人ペアとして出られた理由は何だと思いますか?

もちろんいくつかあると思いますが、私は彼女たちが初めて組むとなった時に、かなりいい感触を持っていました。人間的にものすごくいい人間で、テニスが好きで、すごく誠実に、向き合っているというエネルギーを感じます。

柴原選手がダブルスパートナーを見つけたいと思っているというお話を聞いていた中で、青山選手と組んだのを見て、ああ、いいパートナーを見つけたなと思いました。青山さんもいい成績はコンスタントに残していましたが、ペアは固定していませんでしたから。

柴原さんのサーブ力、サーブ&ボレーや色んなことができるテニスと、青山さんの正確できちっと型があるダブルスがすごくフィットするだろうなって思いました。

2人の試合を見ていると、とても言葉があの交わされていますね、コミュニケーションが積極的になされて、これが一番だなと見ていても感じられます。どちらかが黙らず、常に遠慮なくお互いの思っていることを交わしている印象がりあります。

1大会ならそれがなくても優勝ができるのですが、勝ち続けるとかペアを作り上げるという上ではそれが一番重要で、お互いのチームを含め、噛み合った状態だというのがすごく見ていて伝わってきます」

ーーちゃんとした役割分担があり、その中にコミュニケションがあり、そしてチーム全体としてのこう相性も良くという感じで、一つのペアを全体で作り上げていっている感覚なのでしょうか。

「そうだと思います。今負けた時に、個人としてはこの問題があるよね、チームとしてはこの部分を改善できるよね、というのをすごく話し合えるだろうなということを感じます。

2002年に愛さんと組んでもらった時、私はとにかくフィジカルがもたなかったですね。それにまだダブルスにコミットもしていなかったので、じゃあ来年シングルスを捨てて身体を作って、ペアを作り上げていきましょうっていう感覚にはなれなかったんですよね。でも青山さん柴原さんには迷いがないですよね。今このダブルスとしていかにいいチームを作っていくかっていうところ一択だと思います」

ーー2人の試合を見たことない人に、プレーの特徴や性格の特徴、持ち味を伝えてください

「柴原さんはアメリカ育ちというのもあって、やっぱりサービスの重要性をわかっていますし、自分自身もサービスを武器としてゲームを作っているというのが、日本で育った日本人にはない強みです。パワーもあり、思い切りもあり、そしてコミュニケーション能力が高いというところが印象的です。

一方青山さんは本当に堅実とか、着実とか、そういう言葉が似合うスタイルで、これまでのダブルスで積み重ねてきたものがたくさんあります。持ち味はフットワークと、ネットでの思い切りの良さですね。

豪快な柴原さんと、技術者の青山さんが組み合わさり、日本の真面目さとアメリカの大胆さが融合した、ビジネスでも求められるようないいペアリングだと思います」

ーー青山さんが大学を経てプロになったということで、大学の団体戦の緊張感などを味わっているところでもダブルスには生きていると思いますか?

「私自身は大学を経験したことがないので、そこまで正確なことは言えませんが、やっぱりこのダブルス力は、大学のテニスで勝つ上でキーとなります。その中のキーパーソンだったと思うので、高校だけでジュニア時代が終わった選手と比べて、ダブルスにかける思いとか、ダブルスの重要性とか、戦略など、基本的に考え方がしっかりしていると思います。

彼女が大学出たばかりの頃、全日本選手権のダブルス決勝で対戦した時に、思い切りの良さと、自分の役割を本当に若い頃から熟知して、判断を正確にできる子だなと思っていました。また、奢りがなく本当に謙虚だし、とても気持ちのいい選手です。毎朝会ったら自分の調子がどうであろうと、気持ちの良い挨拶ができる選手ですね」

ーーツアーファイナルでしかも2番目に入り、優勝が期待されるところに位置していると思うのですが、実際優勝は射程圏内でしょうか?

「2人とも準備において、もう抜かりはないと思います。だからこそ、今その瞬間を楽しんでほしいし、本気で楽しんでほしいです。そうすれば結果は後からついてくると。過去を積み重ねたことを大事にしつつ、今その瞬間の相手とか自分を見るしかないのかな、と思います。

その舞台に立ってどういう気持ちになるのかは彼女たちにしか分かりません。私と違うのは本当に2人での経験値が物凄くあるということです。対戦していないペアもいないでしょうし、データもあるかもしれません。そういうのを結集させて本当に楽しんでほしいと思います。優勝する、勝つというのも大事ですが、それを全部コートに置いてくる思いというか、作戦として本当に悔いのないテニスをしてほしいと思います」

ーーチャンスとしてはもう既にあるという感じなのでしょうか?

「勝敗は常にフィフティ・フィフティだと思います。強いペアが集まっている中で、総合力というか、その瞬間に持てる勇気を振り絞って、その一歩一歩一打一打の積み重ねと駆け引きだと思います。

気持ちが余分に入り過ぎると力みにもなるし、相手にも手をよく読まれる。守りすぎもだめだし、攻めすぎも…と、難しいですが、緊張感の中に立たされると、やることがシンプルになることもあります。全員本当にうまいし、集中力もある。色々挙げましたが言葉ではない世界が出てくると思います。もしも極度の緊張状態になったらもう『感じる』しかないでしょう」

ーーメキシコの会場の雰囲気や観客というところでは?

「メキシコのグアダラハラは私もコーチとして帯同したことがあるのですが、気候は乾燥しているでしょうし、標高が高くボールがものすごく跳ねる印象です。そういう準備は必要になるでしょう。もちろんお客さんを味方につけるというのも大きいと思います。ペアが気負い過ぎていると、その重さも自然と伝わります。今この瞬間を思い切り楽しんでいる方をお客さんは応援するので、頑張っているな、楽しそうだなという雰囲気が伝わるといいですね」

ーー最後にツアーファイナルを目の前にした2人に声をかけるとしたらどんなことを伝えたいですか?

「もう『思いっきり楽しんで!』しかないですよね。楽しもうとして楽しめるものではないのですが、作戦はもう色々やってきているし、本当に極限まで極めようとしている。その日が良かろうが悪かろうが、そこに立てるのは彼女たちしかいないし、ちゃんとやってきたからこそ立てているのですから、自分たちの積み重ねを信じてほしいです。

そしてこのような素晴らしいダブルスペアがいる貴重な時代なので、日本で国際大会をぜひ開催してほしいです。選手が本当に大切だと思える大会を早く有観客でやってほしいですね」

WTA FINALS(WTAファイナルズ)
11月10日〜17日
メキシコ・グアダラハラ
パン・アメリカンスタジアム
賞金総額500万ドル(約5億6千400万円)

・方式
上位8チームを2つのブロックに分け、総当たりのラウンドロビン戦を行う。上位4チームが決勝トーナメントに進出し、優勝を決める。

■ダブルス■

Tenochtitlán

青山修子(JPN)/柴原瑛菜(JPN)[2]
N・メリチャー・マルチネス(USA)/D・スゥース(NED)[4]
S・ストサー(AUS)/張帥(CHN)[5]
D・ユラク(CRO)/A・クレパック(SLO)[7]

El Tajín

B・クレイチコバ(CZE)/K・シニアコバ(CZE)[2]
謝淑薇(TPE)/E・メルテンス(BEL)[3]
A・グラッチ(CHI)/D・クラフチェク(USA)[6]
S・フィッチマン(CAN)/G・オルモス(MEX)[8]

■シングルス■

Chichén-Itzá

M・サバレンカ(BLR)[1]
M・サッカリ(GRE)[4]
I・シフィオンテク(POL)[6]
P・パドサ(ESP)[7]

Teotihuacán

B・クレイチコバ(CZE)[2]
K・プリスコバ(CZE)[3]
G・ムグルサ(ESP)[6]
A・コンタベイト(EST)[8]

取材/保坂明美 写真/本人提供