慶應義塾大学の発田志音氏、東京弁護士会の山本衛弁護士、専修大学の平田大輔教授、筑波大学の三橋大輔准教授らの共同研究チームは2021年10月、全国の大学体育会系テニス部を対象に実施した「大学テニス部のグッドガバナンスに関する調査」の分析結果を発表した。

同調査は、我が国の大学体育会系テニス部におけるガバナンス(組織運営)の実態を把握することを目的に、テニス部を有する全国268大学に対して、AG-CT尺度と呼ばれる評価尺度に基づいてアンケートへの回答を求めたもの。全日本学生テニス連盟のほか、全国に8つある地域学生テニス連盟の協力を受け、2021年6月から2021年7月にかけて実施された。

その結果、大学テニス部の意思決定において多数決を採用していると回答した大学は約7割を占めていた一方、「競技レベルの高い部員の発言力が大きい」「部員の意見を聞かずに監督が独断している」といった状況が複数の大学から報告された。また、団体戦の代表メンバー選考の場面では、「選手の実力ではなく、プレースタイルが監督の好みか否かで代表選手が決められていて不満を感じる」といった意見も出され、公平性・透明性のさらなる向上が課題となった。

また、寝坊や遅刻、部内ルール違反などがあった際に部員に対して科す罰についても、改善点が浮き彫りとなった。ひと昔前までは、体育会での罰といえば坊主やうさぎ跳びなどが横行していたが、今でも罰自体は伝統として残っている場合が多い。その方法は、罰トレーニングや罰ランニング、罰掃除、罰ボール拾い、場合によっては罰金など多岐にわたる。そうしたものは当然、過度であったり恣意的であったりすれば、体罰やいじめなどに該当しかねない。実際に調査では、上級生によるハラスメントや、特定の部員に対するいじめ事案も報告されており、軽視できない実態が見えてきた。

筑波大学准教授で硬式庭球部監督の三橋大輔氏も、「当然、罰則の内容が体罰やいじめに該当するようなものであってはならない」と強調する。また、「そもそもランニングなどのトレーニングは競技力向上のために積極的に行うべきもので、ボール拾いもボールパーソンにみられるように立派な役割。テニスを楽しめなくするような手段で行う罰は、極力用いるべきでない」とも指摘する。

以上を踏まえて、こうした問題を防ぐためには、代表選手選考方法や罰則などに関する「部活のルール」を、「伝統だから」といった理由で曖昧にすることなく、目的も含めて文章の形で定めておくことが重要になるという。

しかし、「代表選手の選考に関するルール」は1割の大学しか文章の形で定めておらず、「罰則の内容や基準に関するルール」も、約3割の大学しか文章の形で定めていなかった。東京弁護士会の山本衛弁護士は、「ルールは民主的に決められ、あらかじめ周知されてこそ正統性を持つもの。部内のルールといえども、文章の形で定めて事前に部員全員に対して周知することが望ましい」と話す。

また、今回は部活動中の事故や熱中症への対応についても調査が行われたが、「練習場所に学生しかおらず、突然倒れた者への対応が迅速でなく、あたふたした」「ランニング中に部員同士が衝突して脳震盪になった」といった事例も報告され、そうした危機管理の意識向上も課題として見えた。AEDの設置場所や緊急連絡先などを部員に周知することはもちろん、可能な限り講習や訓練を通して危機対応を学び、危機管理マニュアルも作成することが強く推奨されるという。

そのほか、同研究チームは、大学テニス部のグッドガバナンスに向けて、以下の9項目について提言をしている。このように民主的運営や危機管理を徹底することで、チームの結束もより強固なものとなり、競技力向上にも繋がると期待される。

(1)意思決定の過程で第三者による審査を行う
(2)「代表選手選考の方法」や「罰則の内容及び手続き」は文章化する
(3)部員に対するコンプライアンス研修を実施する
(4)幹部学年などに、守秘義務を伴う相談担当者を設置する
(5)暴力等に対するサンクションを部則へ盛り込む
(6)スポーツ事故や熱中症の専門家による勉強会を開催する
(7)事故や熱中症が発生した際の危機管理マニュアルを策定する
(8)指導者による客観的な練習の監視を行う
(9)複数名による部費の記録管理体制を構築する

同研究チームの代表で研究立案者の発田志音氏(慶應義塾大学法学部3年)は、東京大学教育学部附属中等教育学校を卒業後、慶應義塾大学でテニス選手として活躍した一人。今回の研究を企画したきっかけも、自らの競技経験で得た気づきにあったといい、「この研究を通じて、最終的にはスポーツの“楽しさ”を大切にするチームが増えてくれれば嬉しい」と話す。

専修大学教授で女子テニス部監督の平田大輔氏も、「近年はスポーツ団体ガバナンスコードが策定されるなど、日本スポーツ界は新しく生まれ変わろうとしている。この研究をきっかけに、大学スポーツ界全体におけるグッドガバナンスも進むことを期待している」と意気込む。

大学テニス界が我が国の大学スポーツ界のガバナンス強化における旗振り役となれるのか、注目したい。