10月8日(土)、有明コロシアム(江東区・有明)にてATP500『楽天ジャパンオープンテニス チャンピオンシップス』のシングルス準決勝2試合と、車いすテニスシングルス決勝が行われた。

車いすテニスは第1シードの国枝慎吾(ユニクロ・2位)と第2シードの小田凱人(東海理化・5位)という顔合わせに。

「僕がテニスを始めたのは、ロンドンパラリンピックで金メダルを取った国枝さんを見てから」

16歳の小田にとって国枝は、テニスを始めたきっかけでもあり、目標でもあり、そして越えたい壁でもある。

そして「彼と戦うのは刺激になる」という38歳の国枝は、小田を親しみを込めて「凱人(ときと)」と呼び、車いすテニスの次世代後継者として認めている。

その2人が有明コロシアムで対峙した第1セットは、立ち上がりから良い緊張を保ち、お互いサービスキープの展開となる。3−3の第7ゲームで国枝が小田のサーブをリターンで攻めてブレークする。小田はフォアの逆クロス、バックハンドのクロス、ストレートとスピードボールでエースを決めるが、全体を見れば、国枝の組み立てが一枚上手だった。3ゲームを連取し、6−3で第1セットを取る。

国枝慎吾 写真/伊藤功巳

第2セットでも第2ゲームで早々にブレークを果たした国枝だが、続く第3ゲームでブレークバックを許すと、ここから小田のショットに伸びが生まれる。深いストロークを1本打った後、アングルやストレートへ配球し、エースを量産した。後に「いつかやられる日が来ると思っていた。それがこの日なのかなと何度もよぎった」と語る国枝が、2−6でセットを失う。

国枝がトイレットブレークを取り、気持ちも新たに臨んだファイナルセットは、5−1とリードする。バックハンドをコートの角に落とし込む見事なエースでマッチポイントを握ると、勝負があったかに見えた。

しかしそこから「ゾーンに入った」という小田が、怒涛の猛追を見せる。ウイナーを量産し、5−5まで追いつかれた国枝はサービスゲームを落とし、5−6の窮地へと立たされる。

小田凱人 写真/伊藤功巳

車いすテニスで返球しにくいシチュエーションとなるのは、自分に向かって飛んでくる速いリターンだ。チェア操作の時間がなく、ボールとの距離が取れないため、ラケットが振れずにミスヒットになりやすい。百戦錬磨の国枝は、この状況下でサーバーの小田に向かって容赦なくリターンを打ち込みプレッシャーをかけ、タイブレークへと持ち込んだ。

小田のリターンエースから始まったタイブレークだが、国枝は経験してきた修羅場の数が違った。相手のミスを引き出し試合を優位に進めると、7−3で試合を決め、楽天オープン2度目の優勝を飾った。

握手を交わす国枝と小田 写真/伊藤功巳

敗れた小田は表彰式で「国枝さん、本当に今日の対戦にも感謝したいですし…」と言うと、言葉を詰まらせ涙を流す。自らのテニスのきっかけとなった経緯を語り、「こうして同じコートに立って、対戦相手として戦えたことをうれしく思っています。この涙はうれしくて勝手に出てきました。最後の最後で力の差が出てしまいましたが、また来年、さらに強くなって戻ってくることを誓います」と高らかに宣言すると、会場は暖かい拍手に包まれた。

国枝と小田の戦いは、今後も見逃せないものとなるだろう 写真/伊藤功巳

国枝は、東京パラリンピックが決まったとき、「満員のお客さんの前でプレーをして金メダルを取る」という夢ち、金メダルは獲得したが、無観客となってしまったことを話す。この日多くの観客を前にプレーできたことを「もう一つの夢が叶った瞬間でした」と喜びを見せた。

さらに「今日は自分の持っているものを全て出すという気持ちで、最初から最後まで諦めずにできました。凱人は強烈な印象を残しましたし、車いすテニス界は今後、彼を中心に回っていくと思う。これから何度も何度も対戦していくことになると思いますが、毎回どんどん厳しくなってくのは覚悟しています。どこまで抗えるかということも、自分自身楽しみなところでもあります」と、立ち向かってくる若武者と、戦い続ける自分にエールを送った。

名勝負というものは、心技体だけではなく、お互いの背景によって彩られるということを象徴する、車いすテニスの決勝だった。

なお、同日には、男子ダブルスの表彰式も行われた。

ダブルス優勝 荒井大輔(BNPパリバ)/三木拓也(トヨタ自動車)準優勝 小田凱人(東海理化)/川合雄大(トップアスリートグループ) 左から 写真/伊藤功巳

楽天ジャパンオープン車いすテニス
◯国枝慎吾[1](ユニクロ) 6-3 2-6 7-6(3) ●小田凱人[2](東海理化)
車いすテニス男子シングルスドロー

取材/保坂明美 写真/伊藤功巳