テニスの聖地有明で、日本最高峰のタイトルをかけ、選手たちが凌ぎを削る「三菱電機ビルソリューションズ 全日本テニス選手権 98th」(10月28日〜11月5日(日)。11月3日(金)は男子シングルス準々決勝・女子シングルス準決勝、ダブルスの準決勝8試合が行われた。

西郷、加治ともにフルセットの接戦を制する

女子シングルスでは、第2シードの西郷里奈(東急スポーツシステム)が第3シードの伊藤あおい(SBCメディカルグループ)を、第1シードの加治遥が第7シードの清水映里(東通産業)を両者ともフルセットの逆転で下し、決勝へ進出した。

西郷は「自分のやるべきことを1球1球やるだけ」と、第1セットを落としても、その考えは変わらず、最後まで持ち味であるフォアハンドをしっかりと撃ち抜いた。

狙いは伊藤のフォア側だった。「フォアはスライスやループなので、苦しい状況にはならない。むしろバックのカウンターの方が怖い」とフォアにボールを集めた。

4−6、6−3、そしてファイナルセットは5−1とリードした西郷だが、4つのダブルフォールトでサービスゲームを失い、不穏な空気が立ち込める。しかし、「あぁ、きたなと思いました。でもここで入れにいったら後悔する」という思いでラケットを振り抜き、5−3の2度目のマッチポイントをものにして、試合を制した。

「100点とは言えないけれど、乗り越えられて良かった」という西郷は、ダブルフォールトも「そういう自分が決勝の前にここで出て良かった」とポジティブにとらえる。

明日の決勝で対峙する加治については「最近ITFでも勝ち上がっている。気持ちも大人というか、落ち着いてプレーをする選手。明日新しいことができるわけではないので、色々なことに左右されず、自分の強みを出したい」と冷静に語った。

西郷里奈は初の決勝進出。写真:鯉沼宣之

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もう一つの準決勝、加治はハードヒットで攻め込む清水をしっかりと受け止めた。

「ファーストセットは相手のアグレッシブなプレーに劣勢を強いられたが、ボールが浅く入って先に展開されていたので、自分から強く、深く打つことと、入れる時には前に入った」と、第2セットは我慢強く打ち合いファイナルセットへ持ち込む。

第3セットは清水の「サービスからの展開が読めてきた」加治が先にストレートへ展開すると、1ゲーム目をブレークでスタート。次のゲームでブレークバックを許すが、その後5ゲームを連取し、初の決勝進出を決めた。

明日の大一番を控え、「やることはこれまでと変わらず、力まず自分のやるべきことにフォーカスして頑張りたい。相手はよく走るしいいショットを持っている選手。フィジカルで負けないよう、3セットになっても戦い切りたい」と意気込みを述べた。

【準決勝結果】11月3日(木)10:00〜
○[2]西郷里奈(東急スポーツシステム) 4-6,6-3,6-3 ●[3]伊藤あおい(SBCメディカルグループ)
○[1]加治遥(島津製作所) 4-6,6-4,6-1 ●[7]清水映里(東通産業)

【決勝】11月4日(土)11:00〜有明コロシアム
[1]加治遥(島津製作所)vs[2]西郷里奈(東急スポーツシステム)

女子シングルスドロー

片山と徳田が準決勝へ

男子の準々決勝2試合は、片山翔(伊予銀行)が住澤大輔(エキスパートパワーシズオカ)を、徳田廉大(イカイ)が伊藤竜馬(興洋海運) をそれぞれストレートで破り決勝進出を決めた。

3年連続5回目の準決勝進出を果たした片山は、有明のコート特性を生かし、速くて低いボールを住澤に配球した。住澤はサーブで優位に運ぶ展開もあったが、初のベスト8進出ということもあってか、硬さが見られたことは否めない。

18年連続で出場し続けている片山は、「勝ちを意識し過ぎて危ない時間もあったが、気持ちで踏ん張れた」と充実の表情を見せる。また、全日本で勝ち上がるために必要な心理状態として「会場での様子も含め、この大会を楽しんでいる人、緊張とリラックスのバランスが取れている人は勝ち上がっている」と分析をし、「(住澤が)そういう心理状態だったらわからなかったかも」と警戒した。

全日本は「訓練のようなもの」と表現するベテランは、「相手は誰であろうと意識せず、ただ戦うだけ」初の決勝進出がかかる一戦を前にしても、自然体だった。

ベテランの風格を見せる片山翔。 写真:鯉沼宣之

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2018年の決勝カードの再現となった徳田と伊藤の準々決勝は、18年は準優勝に終わった徳田に軍配が上がる。

1本の強さとネットへ出てプレッシャーをかける伊藤に対し、徳田は粘り強さと鋭いバックハンドで応戦する。第1セットは競った展開で徳田が7−5と先取。第2セットも第4ゲームで先にブレークした徳田がペースを掴み、そのまま6ー3で勝利した。

徳田は18年以降、3回戦、1回戦敗退と、思うような結果は出せなかったため「少し離れたほうがいい」と2年欠場した。今年は左膝の故障もあり、3か月の離脱を余儀なくされた中、「この先どうしようかと考えたとき、全日本のタイトルは取っておいた方がいい」と考え、札幌、高崎のITFを全てスキップし、「この大会に懸ける」という思いで準備をした。

試合から3か月遠ざかったにもかかわらず、試合勘は「思った以上にあった」という。離脱前にはカザフスタン・アスタナのITF2万5000ドルで優勝しており、その感覚で戦えている。緊張との向き合い方も工夫し、自分だけしか見ていない昔より、相手も見えてきている。

準決勝の片山戦は「自分が守って、相手が攻める攻防になると思う。やることを明確にして試合に臨みたい。昔対戦していてイメージもある」と自信を見せた。

ケガからの復帰戦でベスト4まで進出した徳田廉大。写真:鯉沼宣之

【準々決勝結果】11月3日(木)
○[5]徳田廉大(イカイ)7-5,6-3 ●[3]伊藤竜馬(興洋海運)
○[9]片山翔(伊予銀行) 6-3,6-4 ●[13]住澤大輔(エキスパートパワーシズオカ)

【準決勝】11月4日(木)
NB14:00
[7]白石 光 (SBC メディカルグループ) vs [Q]上杉 海斗 (江崎グリコ)
NB15:30
[5]徳田廉大(イカイ)vs [9]片山翔(伊予銀行)

男子シングルスドロー

※11月3日から入場料2000円、学生無料(チケット情報
JTAのYouTube『JTA テニス オンライン』では毎日生視聴可能。
(有明コロシアム、コート1,コート2、コート3)
『スターテニスアカデミ/スタテニYouTube』では解説やゲストの飛び入り参加でその日のお勧めの試合を楽しめる。

11月4日(土)女子シングルス決勝 と11月5日(日)男子シングルス決勝 は NHKBS1で生放送

ダブルス

○[4]田口涼太郎/羽澤慎治(Team REC/JCRファーマ)7-6(4), 6-3 ●[1]上杉海斗/松井俊英(江崎グリコ/ASIA PARTNERSHIP FUND)
○[2]市川泰誠/渡邉聖太(ノア・インドアステージ/橋本総業ホールディングス)6-3, 6-4●[3] 柚木武/片山翔(イカイ/伊予銀行)

○[1]伊藤あおい/瀬間詠里花(SBCメディカルグループ/橋本総業)7-6(5),6-4 ●[3]今村咲/佐藤南帆(EMシステムズ/三田興産)
○光崎楓奈/松田美咲(フリー/橋本総業)6-2, 6-1 ●堤華蓮/大川美佐(慶應義塾大学)

男子ダブルスドロー
女子ダブルスドロー

日本 テニスミュージアム

全日本選手権の大会期間中「テニスミュージアム」が有明テニスの森公園のクラブハウス2階にオープン。
100年をこえる日本のテニス史を飾った選手の写真や、ラケットなどなどを展示。
入場無料(9時から21時まで)

「テニスミュージアム」 photo 伊藤功巳

取材:保坂明美  写真:鯉沼宣之/伊藤功巳