100回目という節目を迎えた「三菱電機ビルソリューションズ 全日本テニス選手権100th Supported by 橋本総業ホールディングス」(本戦10月5日~12日)。日本最高峰のタイトルをかけ、選手たちが頂上を目指した。最終日となる10月12日には、日本テニス協会名誉総裁であられる佳子内親王殿下がご観戦される中で男子シングルス決勝を実施。その後に男女ダブルスの決勝と、車いすのエキジビションが行われた。

田口涼太郎がケガを乗り越えて初優勝

不調から抜け出した田口涼太郎。写真/伊藤功巳

昨年はベスト4だった第8シードの田口が、ノーシードから勝ち上がってきた同年代の市川泰誠を6-4、7-5のストレートで制して、大会初優勝を飾った。

今年3月に右足首を故障し、その後にヒジも痛めて調子を落としていた田口は、2024年12月2日に出した世界ランク自己最高536位から、800位にまでランキングを落としていた。ランキングを上げることを優先するために、全日本は欠場しようかと考えていたが、コーチから「全日本に優勝した選手は、その後にATPでも上がっている。タイトルを取って自信を付けよう」と言われて出場を決意。

出ると決めてからは今大会に照準を合わせて、トレーニングと練習に多くの時間を割いて準備をしてきた。その調整の効果もあり、1回戦から接戦になるものの勝ち切り、駒を進めるにしたがい調子も上向きになっていく。

身体が硬い田口は、ジョコビッチや他のトップ選手の動画を見て、ヨガなどの柔軟性を意識したトレーニングを取り入れていることを知り、故障した期間に実践してみることに。そのトレーニングが合っていたようで、コートカバーリングが向上し、肩の可動域が広くなったことでサービス力アップにもつながっている。その効果が今大会でも存分に発揮されていた。

ケガをした時期にフィジカルを鍛えてきた市川泰誠。写真/伊藤功巳

決勝戦の相手は公式戦では初対戦となる24歳の市川。彼も春にケガで試合に出られない期間があり、その時にフィジカルを鍛えてきていた。お互い初の全日本決勝の舞台である。

田口は1ゲーム目でブレークに成功。得意のフォアを軸にラリーを展開し、サービスも厳しいコースに入り、第1セットを6-4で奪取。第2セットでは市川がよく走り積極的なプレーを披露して先にブレークされてしまう。第2セットを失う目前だったが、「コーチに『取られるなら行こう』と言われて、もう1度フォアで攻めるようにしました」と切り替える。吹っ切れたことでブレークバックに成功し、得意なワイドサービスも決まり、ストレートでの勝利をもぎ取った。

気持ちを切り替えてストレートで勝利した田口涼太郎。写真/伊藤功巳

優勝後に感想を聞かれて「ホッとしました」と答えた田口。彼にとって全日本に出ることは、ATPで活躍することにつながっているからこそ、結果を出すことに意味があったのだろう。

この大会を振り返り、「第8シードだったので、初戦、2回戦は相手にぐいぐい来られる、それ以降は思い切りプレーできて、自分が思っていた以上の力が発揮でき、結果も出て自信になりました」と、大会前の思惑通り経験と自信を手に入れた。この優勝を切っ掛けにして、コーチの言う「ATPでも上がれる」選手を目指す。

組んで2大会目で初勝利&初優勝した小堀桃子/山﨑郁美ペア

真逆のプレースタイルが機能した小堀桃子/山﨑郁美ペア。写真/伊藤功巳

女子ダブルス決勝は第1シードの小堀桃子/山﨑郁美ペアが松田美咲/細木咲良ペアに6-1、7-6(5)で勝利して初優勝を果たした。小堀がハードヒット系、山﨑がループ系と違うタイプだけに「お互い出し切れば自然といいペアリングになる」と山﨑が考えていた通り、うまく機能して決勝まで駒を進めた。

決勝ではループの多い松田と低い軌道が多い細木相手ということを考慮して、ループを使ったりペースを落とした展開にするなど柔軟に対応。第2セットは接戦となったが、最後は山﨑の鮮やかなバックのストレートで優勝を決めた。第1シードだが2人が組んで出場したのはこれが2大会目で、今大会でペア初勝利&初優勝という結果になった。

山﨑は「(優勝の感想は)まさか自分がというのが大きい。厳しい場面もあったけれど、小堀さんは『負ける時は負けるから』と飄々とやるので、そういうメンタル面に助けられました。全日本のタイトルはダブルスであっても簡単に取れるものではないので、勝ちたい時にしっかり自分の実力を出せたことを自信にして今後も勝ちたい時に勝ち切れる選手になりたいと思います」。

小堀は「決勝は2回目で1回目の時は本当に緊張して何もできませんでした。今日は緊張せずに最後まで楽しめたところが成長できたかな。全日本は緊張感がある大会なので、最後まで勝ち切れたことは今後に生きると思います」。2人の今後の活躍にも期待しよう。

田口涼太郎/野口政勝ペアが悲願の日本一を達成

準優勝を経験している田口涼太郎と野口政勝が優勝を狙ってペアを組んだ。写真/伊藤功巳

男子ダブルス決勝は、第4シードの田口涼太郎/野口政勝ペアが、第1シードの中川舜祐/楠原悠介ペアに6-2、0-6、10-8で勝利して初優勝。田口は単複2冠となった。

優勝した2人は全日本の男子ダブルスで準優勝の経験があり、「出るからには優勝」という共通認識があった。ペアを組んだのも、このパートナーであれば「優勝できる」と思ったからだ。特に野口は、ジュニア時代から全国準優勝の経験はあっても優勝したことがなかったため、日本一の称号を欲していた。

その称号を得るため、今までコーチをしながら時々試合に出るスタンスだったが、「優勝するには世界を回らないと」と感じて一念発起。スポンサーや同期で全日本優勝経験者の長尾克己さんのサポートの元、昨年からITFの大会に挑戦するスタンスに変更した。

決勝戦では第1セットを思い通りの形で取ったが、相手は第1シード。「そう簡単には行かないと思っていたので、第2セットは色々試しながらファイナルで全てを出そうと思った」と言う野口の思惑どおり、10ポイントタイブレークを見事に制して初タイトルを獲得した。

「全日本の優勝を一番の目標にしていた」という野口は悲願を達成し、「めちゃくちゃ楽しかった」。田口は「まさか単複2冠できるとは1ミリも思っていなくて、まだ信じられない。全力を出し切って優勝できて本当にうれしい」と、2人とも満面の笑みだった。

【10月12日の結果】

■男子シングルス決勝
〇[8]田口涼太郎(Team REC) 6-4 7-5 ●市川泰誠(ノア・インドアステージ)

■男子ダブルス決勝
〇[4]田口涼太郎/野口政勝(Team REC/ONE DROP) 6-2 0-6 10-8 ●中川舜祐/楠原悠介(伊予銀行)[1]

■女子ダブルス決勝
〇[1]小堀桃子/山﨑郁美 (橋本総業ホールディングス/島津製作所) 6-1 7-6(5) ●松田美咲/細木咲良(エームサービス/原商)

取材・文/赤松恵珠子 写真/伊藤功巳