
100回目という節目の大会を迎えた「三菱電機ビルソリューションズ 全日本テニス選手権100th Supported by 橋本総業ホールディングス」(本戦10月5日~12日)。日本最高峰のタイトルをかけ、選手たちが頂上を目指す。10月11日は女子シングルス決勝、男子シングルスと男女ダブルス準決勝の計7試合が行われた。
岡村恭香がメンタルの成長を見せて初戴冠

4年ぶりの全日本に第2シードで登場した30歳の岡村が、2018年チャンピオンで7年ぶりの出場となった清水を、7-6(2)、3-6、6-4のフルセットで制して初優勝を果たした。この優勝は岡村のメンタル面の成長が表れた結果だった。
岡村にとって前回の全日本は2021年で、第1シードで出場し3回戦で敗れている。彼女の全日本での最高成績は3回戦進出。勝ちたい試合ほどプレッシャーを感じてしまい勝てないという状況に陥っていた。
今年は第2シードでの出場で、世界ランクも自己最高を更新しており周りからは「優勝してもおかしくない」と言われていた。しかし、「それができないのが今までの自分」だと認めることで、「いい意味で自分に期待していなかった」と言う。
第1セットで先にブレークされた時、第2セットを取られた時、なぜうまくいかないんだと思うのではなく、想定内だと思えた。「これが自分。うまくできないところも含めて、今できることを精一杯やろう」と考えられるようになっていた。
そう思えるようになったのは、今年グランドスラム予選を経験し、相手も同じぐらい勝ちたいと思っている中で、「自分が120%出さないと相手の全力を押し返せないということを、よくやく心の底で理解することができた」からだ。

決勝戦ともなれば、当然相手も勝ちたい気持ちは強くなる。岡村はフォア、清水はバックと、自分の武器を軸にポイントを取り、第1、2セットとも競った内容になる。決勝の舞台にもかかわらず、2人とも振り切れており、伸びのあるボールが飛び交う、今できる精一杯を出したプレーが展開された。
ファイナルセットに入るとブレーク合戦となる。「先にチャンスが来たのは私だった」と清水。サービス力は岡村の方が上回っており、リターンゲームで流れを作っていく清水にとっては、勝機を見出せる場面だ。
岡村にとってはサービスゲームをキープする方がストレスはないが、「相手のサービスゲームにプレッシャーをかけられている自信があったので、自分のサービスゲームのどこかで(ギアを)上げることができたら、ブレーク1つ多く終われるのかなと思っていた」。そのタイミングが3-3の7ゲーム目に訪れて岡村がキープ。残りのゲームもブレークが続き、岡村が長い長い道のりを登り切って、頂点に到達した。

今大会は全ての試合がフルセットで、負けそうな場面は何度かあった。周囲の期待は今までだったらプレッシャーとなっていたが、自分の中で消化できた。勝ちたい自分の気持ちも、うまくコントロールできて手にした「絶対ほしいタイトル」だった。
「今年30歳となり、選手として成熟している時に100回の記念大会を迎えられるということで、このタイミングで優勝できたら素晴らしい」と思い描いていたことが実現となった。100回記念のために集まったレジェンドたちと肩を並べ「夢の中を生きているようです」と、まだ実感はわかない様子。
それでも、勝ちたい試合に勝てた経験は今後大きなプラスになることは間違いない。今後の目標は「トップ100を切って、グランドスラム本戦に出場できるランキングに上げること」。そのためにはこれからのアジアシリーズで結果を出さなくてはいけない。今の岡村なら、その状況でも戦い抜き目標を達成できそうだ。

男子決勝は田口涼太郎vs市川泰誠に

男子シングルス準決勝は、第8シードの田口涼太郎が、第1シードの磯村志を6-4、6-7(4)、6-4のフルセットで倒して初の決勝に駒を進めた。田口は「行かないと先に攻められるとわかっていたので自分から行くしかないという気持ちで臨んでいました」と攻めの姿勢を貫いての勝利だった。
明日の試合については「昨日までは優勝というよりも目の前の試合を頑張るだけでしたが、決勝に来ると勝ちたい気持ちが強いです」と優勝に向けて意欲を見せる。ダブルスでも決勝に残っており、明日は単複2冠を目指す。

もう1つの準決勝は、2回戦で第2シードを破った市川泰誠が、予選から勝ち上がってきた山﨑純平に6-7(6)、7-6(1)、6-3の大接戦の末に勝利して決勝進出を果たした。
田口とはシングルスでは初対戦となる明日の決勝について、「田口選手の勢いは、今日見ていてすごかったので、しっかり食らいついて、序盤から…、毎日序盤から頑張ろうと思ってるんですけど、なかなかファーストセットが取れずにいるので、明日も序盤から集中して頑張ろうと思います」と、3試合連続で第1セットを落としていることを振り返りながら気を引き締めた。
2人とも初の決勝戦となるため、明日はどちらが勝っても新チャンピオンが誕生することになる。
【10月11日の結果】

■女子シングルス決勝
〇[2]岡村恭香(橋本総業ホールディングス) 7-6(2) 3-6 6-4 ●清水綾乃 (Team LB)[5]
■女子ダブルス準決勝
〇松田美咲/細木咲良(エームサービス/原商) 6-3 3-6 13-11 ●清水映里/鮎川真奈 (Totsu/ロイヤルSCテニスクラブ) [4]
〇[1]小堀桃子/山﨑郁美 (橋本総業ホールディングス/島津製作所) 4-6 6-2 10-8 ●山口花音/田邑来未 (関西大学/早稲田大学)
■男子シングルス準決勝
〇[8]田口涼太郎(Team REC) 6-4 6-7(4) 6-4 ●[1]磯村志(やすいそ庭球部)
〇市川泰誠(ノア・インドアステージ) 6-7(6) 7-6(1) 6-3 ●山﨑純平(ONE DROP)
■男子ダブルス準決勝
〇[1]中川舜祐/楠原悠介(伊予銀行) 6-4 6-4 ●末岡大和/磯村志(エキスパートパワーシズオカ/やすいそ庭球部) [3]
〇[4]田口涼太郎/野口政勝 (Team REC/ONE DROP) 6-0 3-6 10-8 ●本田尚也/松岡隼(サトウGTC/三菱電機エンジニアリング)
取材・文/赤松恵珠子 写真/伊藤功巳


