“レジェンド”たちの一言ひとことに、コクコクと頷きながら耳を傾け、ペンをノートに走らせる。

「発表したい人!」と司会者がたずねると、すぐにピンと手が上がる。

一般社団法人『Square Plus』は、元シングルス8位・ダブルス1位の杉山愛さんが代表理事となり、日本の元トッププロテニス選手たちが立ち上げたプロジェクトチーム。2025年の創設以来、女子国際大会の運営やセミナーを通じて、世界に羽ばたく若手選手たちを支援してきた。

 その『Square Plus』がこのたび、新たなプロジェクトを始動する。それが『Square Plus メンタリング supported by MOS BURGER』。『Square Plus』の面々がMentor(=師・助言者)となり、対話を通じて若手選手や、時に指導者や保護者たちとも答えを探求する場である。対象となるのは、プロアスリート予備軍だけではない。夢の実現を目指す人々や、悩みを抱える若者たちに道しるべを提供したいとの想いが、このプロジェクトの原点にある。

5月末、福井市内で『Square Plus メンタリング supported by MOS BURGER』の第1回が行われた。参加者は、全国大会の常連である仁愛女子高等学校のテニス部員たち。部活動でテニスに打ち込むだけでなく、地元開催の国際大会などではボールパーソンを務めるなど、地域活動にも貢献している。

講師をつとめたのは、元世界21位の浅越しのぶさんと、元30位の土居美咲さん。十代前半から国際大会の舞台を踏んできた土居さんに対し、浅越さんが硬式テニスを始めたのは中学校の部活動からと遅め。それぞれの道を歩み、異なる障壁や悩みを乗り越えてきた二人が、「将来への不安との向き合い方と、挑戦の継続」をテーマに、15人の高校生たちと闊達に言葉を交わした。

仁愛女子高等学校のテニス部員を対象に行われたメンタリング

同じ高校のテニス部員でも、抱える「将来への不安」は人それぞれ。テニスの上達に頭を悩ませる人もいれば、人生の岐路に立った時に何を指標とすべきか迷う人もいる。

 土居さんは15歳の時、通信制の高校に入り、テニスに打ち込む道を選んだ。その決断の背景にあったのは、当時の高校テニス界に存在した、通称「45日ルール」。46日以上海外遠征をすると、インターハイ(全国高校総体)に出られないという規則だ。

それを踏まえ、「インターハイに出たいのか、世界で活躍したいのか」と自問した時、土居さんは後者を選ぶ。

「『なりたい自分』を実現するために、何をすればよいのか」

 それが土居さんの一貫した判断基準であり、後進たちに示す一つの羅針盤だった。

 他方で中学・高校一貫の園田学園に通っていた浅越さんは、中学から高校に上がる時に「もっと良い環境の学校に移った方が良いのでは」と思ったという。そこで親に相談すると、「隣の芝は青く見える。今の自分が100%の力を出し切れているかどうか、一度見返してみたら?」と言われた。その言葉を聞いた時、浅越さんは「今いる場所で最高の花を咲かせよう」との決意を強めたという

 約1時間に及ぶメンタリングの最後に、参加者たちはそれぞれ、「最も印象に残った言葉やメッセージ」を書き留めた。

熱心にメモをとる生徒たち

 ムードメーカー的存在のほのみさんは、「土居さんが言っていた、『テニスは人を変える』を選びました」という。一年生のほのみさんは、この春から親元を離れて寮生活を始めたばかり。生活環境も大きく変わった中で、「私は雑なので、自分のことは自分でしっかりできるようになりたい」との思いを強めた。

 参加者の中で最も早くテニスを始めたあこさんと、最も遅く始めたあおばさんが選んだ言葉は、どちらも「周りの人と比べない」。ただその内訳は、異なるようだ。5歳からテニスを始めたあこさんは、「最近、周りのみんながどんどん上達して、やばいなと感じていた」という。周囲との比較で「自分が一番でありたい」と思っていただけに、殊更この言葉が響いたようだ。

 あおばさんがテニスを始めたのは、小学4年生の時。周りと比べ「自分はダメだから」となりがちな思考を、変えていきたいと言った。

 第1回目となる今回の『メンタリング』を終え、土居さんは「参加者たちの反応がとても良かった」ことを喜ぶ。

「明日から急に何かが変わるという訳ではないでしょうが、何かのヒントやきっかけになれば」と、この日の会話が長く心に残ることを願った。

 浅越さんも「みんな目がキラキラしていた。こちらが発信したことを、素直に受け止めていた」と手ごたえを覚えた様子。

「テニスがうまくいかない時や、気分の乗らない日にこそ、今日みんなで話したことを意識して欲しい」と言う。

 なお『メンタリング』終了後は、みんなでモスバーガーを食べて笑顔に。ボリュームたっぷりのバーガーをペロリとたいらげる食欲は、頭をフル回転していたことの証だろう。

取材・文/内田暁 写真/Square Plus