テニスの全日本選手権、最終日は9日、東京の有明テニスの森公園で行われ、男子シングルス決勝でノーシードの23歳、江原弘泰(日清紡ホールディングス)が杉田祐一(三菱電気)と対戦し7-6(7)、6-4で勝利した。
「自分でもこの優勝に驚いている。自分ができることは100%できた」という世界ランク591位の江原。「全然だめでした。自分のテニスができなかった。この結果を厳しく受け止める」という同ランク124位の杉田。
過去の対戦では杉田の4戦4勝ながら、まだ高校生だった17歳の初対戦からファイナルセットにもつれこむ接戦を演じている江原は「チャンスがある」と感じていた対戦。全日本決勝の舞台だったからこそ江原の勝利があった。選手たちの言う「特別な大会」それが全日本選手権なのだ。
江原は全日本選手権の前にトルコの大会で準優勝を果たし、もう1週間あったトルコの大会を直前でキャンセルして全日本選手権に挑んできた。
またドイツ人コーチであるTobias Kleinとともに大会の予選が始まる何日も前から会場である有明のコートで練習を重ねるなどノーシードながら優勝を目指して最も準備し、テニス一家の末っ子でもある彼の活躍を支える家族とともに、全日本のタイトルを誰よりも狙っていた選手の1人だったのかもしれない。
昨年から32ドローとなった全日本選手権は、優勝賞金が400万円となり、昨年決勝を戦った伊藤や西岡も今年の全日本選手権の出場を狙っていた大会。そのなかで今年で言えば世界ランキング124位の杉田が今年のウインブルドンに続いて来年の全豪オープンを目指す杉田は、1回戦に勝った直後から「優勝します!」と強気の発言をしてした。杉田にとって、出場を決めたからには「こんなところで負けていられない」との気持は強かったのだ。
全日本の「伝統」云々は別にして、現実的に何がいちばん違うかとその賞金額だ。全日本優勝は400万円。優勝した江原はスイスを拠点に世界のトップ選手が集結するヨーロッパの質の高い大会に挑んでいるが「この賞金でこれからのツアー活動を考えることができます」と話していた。全日本の翌週から始まる慶応チャレンジャーには日本のトップ選手たちが出場しているが、全日本にもチャレンジする選択があってもよかったかもしれない。
準優勝しながら「全日本への出方が難しくなった」と言った杉田。他の選手が全日本を敬遠した中で、敢然と全日本優勝を宣言して「挑戦」した杉田は立派だった。
テレビ解説をしていたのは1992、1993年で決勝まで進みながら全日本のカップに届かなかった辻野隆三。彼は「選手のレベルがすごく高くなっていて僕らの時代とは比較にならないくらい試合が面白かった」と大会を振り返った。
全日本はいつまでたっても「日本一のテニス選手を決める大会」であってほしいと思う。そしてその全日本優勝を契機に選手にはさらなるステップアップを願ってやまない。江原弘泰という選手がこの優勝をきっかけにどこまで伸びていってくれるのか楽しみでならない。