日本のAIGオープンも、金融危機の影響を受け、次のメインスポンサー探しが難航していると聞きます。当然、世界中で今後、同様のことが起きる可能性があります。実は、2009年の世界のテニス界は、未曾有の危機を迎える可能性があります。
「2009年、世界のテニス界はどうなる」の第2回の今回は、「日本のテニス業界の構造的な問題」を説明。


※「世界のテニス界はどうなる」は2部構成です。
「世界規模で悪化するスポンサー事情」
「日本のテニス業界の構造的な問題」(今回)

海外観戦は行きやすくなる

日本に目を向けて見ても、いい影響はあまり感じられません。円高で海外に観戦に行きやすくなる、というのはあるかもしれませんが、欧米の景況が悪化すれば当然、現地の治安は悪くなるもの。観戦以外の部分での危険度は増します。
私が初めて全米に行ったのは90年代半ばのこと。当時のアメリカはやや景気が悪く、「夜はこの通りより向こうに行かないでください」と言われた場所がごく繁華街のすぐ側にあったり、取材を終えてマンハッタンに戻り、道を歩いていると一角が封鎖されていて、聞けば「ショットガンで誰かが撃たれた」という事態に遭遇したりもしました。
その後、アメリカの景気が良くなるにつれ、現地の治安は良くなって、一時は「夜の渋谷より怖くない」と感じるようになったものです。
今はマンハッタンに失業者が溢れているのだとか。現地情報をまず確認してから行くのは、どんな時期でも必要ですが、より大切になってきていると考えた方がいいでしょう。

景気に左右されるテニス人口が、テニス界全体に影響

日本のテニス人口の推移は、日本の景気の動向に素直に左右されているというデータがあります。日本の景気が悪くなると、テニス人口は減る傾向があるわけです。
となると、当然の流れとして、テニス用品の売上も期待できなくなる可能性があります。
日本のテニス界を支えているのは、テニス用品メーカーや、コートを提供するスクールやクラブ。つまり、愛好家層に対して何らかのサービスを提供して利益を上げている企業(テニス関連企業)がその基盤になっているわけです。ここが弱くなってしまうと、全体に影響が出ます。
このような構造が日本のテニス業界の構造です。

日本のテニス界の構造的な問題

日本のテニス界の構造的な問題として、テニス関連企業が中心な分だけ、テニス人気を盛り上げる=オンコートプレーヤー、愛好家を増やす、ということにエネルギーが使われます。
サッカーや野球でも、競技の普及や若手の育成はもちろんやっていますが、テニスほど必死に愛好家を増やすことが、テニス界を盛り上げること、と考えているプロスポーツ・カテゴリーを持つ競技はなかなかないのではないでしょうか。
野球もサッカーもまず、観客動員を考え、テレビ放映を考え、スタジアムでのホスピタリティを考え、ファンと選手の交流について心を砕き、そこにスポンサードしてくれる企業を募ります。とにかくまず人気を上げることを考えるものです。
ところが、テニスはまず愛好家を増やすことを重視します。専門メディアも結局、それに流されやすくなっていて、逆に新しいファンに対しては、敷居を高くしてしまっている部分もあるような気がします。

資金を広く、様々な業界から集めやすい環境を作ること

プロ野球は新聞社が大口のスポンサーだったり、サッカーは自動車会社が親会社だったり、大会のスポンサーに大手飲料ブランドがついたりと、その業種とは関係ない企業がついていることが多いのですが、テニスの場合、あくまでもテニス関連企業が中心であり続けてきています。
もちろん、サッカーとは関係ない自動車会社の不振で、サッカークラブが傾いたりする可能性もあるわけで、テニスのように愛好家が支える構造というのは逆に強くもあると言え、それ自体は決して悪い構造ではないのですが、この構造は、正直に言って、マイナー競技の構造のままと言っていいでしょう。
資金を広く、様々な業界から集めやすい環境を作ること。今後の日本テニスの課題はそこにあると個人的には考えます。

チャンスをモノにしよう

資金を広く、様々な業界から集めやすい環境を作るためにも、せっかく錦織選手や伊達選手で話題が出てきたのですから、それらを最大限に利用して範囲を広げ、経済的な基盤を拡大した方がいいと思うのですが……。
日本のテニス界はどうも、テニス界の外に目を向けない体質があるように思えます。視野を広げ、大きな戦略を立てていかないと、せっかくのチャンスをモノにできず、また10数年前と同じことを繰り返してしまうのでは、と危惧してしまいます。
伊達、松岡の活躍で賑わった80~90年代。日本はまだバブル景気で、テニス界にも色々な企業がやって来ましたが、当時でさえ、テニス関連以外の企業で言えば、時計会社、食品会社、タバコ会社、生命保険会社ぐらいではなかったでしょうか。
もし、あの時期に長い視野を持って、巨大なビジネスとしてテニスをマネージメントする人や、考え方がしっかりとあって実行されていれば、有明テニスの森レベル以上の大きさを持つ、NTCがJTA独自の資金で作られていてもおかしくなかったのではないか、と今になると思います。

戦略を

少し高めのテニスクラブに行くと、駐車場には高級外車がズラリ、というのも日本のテニス界のもう一つの側面。財界にはテニスのシンパは意外に多いと聞きます。しかし、テニスになかなかお金が回ってこないのは、「テニス人気はプレーヤーに限定的で、効果が薄い」と見なされているからでしょう。
海外のテニス雑誌には自動車の広告、しかも高級車の広告が並びますが、日本ではまったくそのような環境になりません。
この辺りについて、日本のテニス界の上の人たちの目には、どう映っているのでしょうか。
「予算がない」という言葉は何度も聞かされましたが、それを確保する手段についてはあまり聞いた記憶がありません。予算がないなら作るための戦略や、必要な人材、手段を高ずるのが普通の考え方なのでしょうが……。
育成に回す予算も結局、テニスの人気が出なければ回らないでしょう。そういうことについて、そろそろ考えられてよい時期だと思います。
※「世界のテニス界はどうなる」は2部構成です。
「世界規模で悪化するスポンサー事情」
「日本のテニス業界の構造的な問題」(今回)
ライターXX