その選手が短いオフをどう過ごしたか、どう調整し、どんな新しいことにトライしたか。選手にとって、何か冒険ができるのはオフの期間だけです。私自身、いろいろトライしましたし、特にフィジカルに関しては相当追い込んだ年もありました。そういう年は、実戦でどれだけ成果が出るんだろう、と楽しみな気持ちでオーストラリアに入りました。オフの間の冒険や調整がどんな成果となって表れるか。これは年始めの全豪オープンならではの見どころです。
※記事:WOWOW提供
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全豪の前哨戦ではカネピ選手の優勝など「おっ!」というような結果も出ています。オフの過ごし方次第で、大きな波乱が起きたり、優勝争いに新しい顔ぶれが加わることも珍しくありません。年始めの大会には、そういうおもしろさがありますね。
前哨戦では欠場や棄権も目立ちましたが、これは近年、テニスのスタイルがそれだけハードになってきているということでもあると思います。スケジューリングの大切さ、自己管理の大切さが問われるところです。また、目先のことよりグランドスラムの全豪に懸ける気持ちが強いので、大事をとっての欠場という場合もあるでしょう。いずれにしても、特にシーズン始めですから、けがをする選手が少ないことを願うばかりです。
では、シーズンの序盤戦を展望してみましょう。
女子は、ウォズニアッキとクビトバのランキング1位をめぐる争いが激しくなっています。ウォズニアッキは年間を通して安定した成績を残し、これを追い抜くことができる選手はいない感じでしたが、クビトバはウィンブルドンで初優勝し、尻上がりによくなってきました。テニスも魅力的で、テニス界の花形になれる選手という印象です。ランキングポイントの差もわずかなので、近い将来、変動があるかもしれません。
ウォズニアッキはランキング1位なのにまだグランドスラムのタイトルがないということで、いろいろ報道されています。さすがにこれは意識するでしょう。彼女にとって、乗り越えなくてはいけないハードルになっていくと思います。ただ、彼女のコメントを聞くと、淡々としていて、1位の座には固執していないように感じます。精神的に強い選手であり、普段からすごく努力している姿も見えるので、これをどう乗り越えていくかが楽しみです。
男子は、やはりジョコビッチの去年からの快進撃が続く予感がします。コート上での、のびのびとした動きは、一番いい時のフェデラーの躍動感と似たところがあって、「アート」という言葉を使いたくなります。
本当に「穴」がない選手だなと感じます。あのフェデラーでさえ、バックハンドの高いところが弱点とされ、そこを狙われることがありました。ナダルも調子が悪いときは、バックハンドのボールが短くなったり、クロスコートのカウンターのコースが甘くなったりということがあります。ところが、そういう穴というか、「ここを攻められたら…」というのが見当たらないのが去年のジョコビッチでした。ディフェンス力もナダルを上回るほどのものがあり、劣勢からのカウンターも素晴らしい。本当に、対戦している人が困ってしまうだろうなと感じるくらいの強さです。
4強の中ではナダルが少し心配です。フィジカルあってのナダルですから、左肩などに故障を抱えているのは不安要素ですね。去年の後半は、少し無理しているな、というふうに見ていました。弱気なコメントも気になります。ジョコビッチの素晴らしさを認めているのは、ナダル自身がリセットしてやり直すためにはいいことなのですが、少し自信がないのかなと感じ取れます。それでも、想像を絶する精神力の持ち主なので、なにか新しい方法でモチベーションを見つけ、再浮上してくるでしょう。
ジョコビッチに体調の問題があったとはいえ、錦織選手が世界1位の選手に勝ったというのは素晴らしいことです。トップ10選手を3人破ったこと、なかでもジョコビッチに勝ったのは大きかったと思います。2011年は文字通り飛躍の年でした。錦織選手の2012年もすごく楽しみですね。全豪では四大大会で初めてシードがつきました。私自身、プレーしていた頃は、グランドスラムのシードがつくトップ30には常に入っていたいなというのが頭にありました。シード選手の戦いやすさを実感していたからです。錦織選手もシードがついたことで、グランドスラムで上位が狙えるところに来たなと思います。グランドスラムで勝つとポイントも大きいし、自信もつきますから、それでまたランキングも上がります。トップ10も十分狙えると見ています。
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※写真提供:アフロ、世界ランク1位のジョコビッチ、クリックで拡大