andy_murray120706_2.jpgロンドン郊外で開催中のウィンブルドン選手権で、7月6日に男子準決勝が行われ、第4シードのアンディ・マリーが第5シードのジョーウィルフリード・ツォンガを6-3、6-4、3-6、7-5で破って決勝に勝ち進んだ。マリーにとってグランドスラム決勝進出は4度目だが、ウィンブルドンでは初。同時に英国人選手としては、74年ぶりのウィンブルドン決勝進出となった。


※写真は英国人で74年振りとなるウィンブルドン決勝進出を決めたマリー、クリックで拡大
スクリーンに映し出されるリプレイなど、彼には関係なかった。手に残った確かな感触が、ウィナーであることを告げている。マッチポイントで放った、鮮やかなフォアのクロスリターン。判定はアウトだったが、「ラケットにボールが当たった瞬間、入ると確信した」。
チャレンジの結果、スクリーンに映し出されたボールは間違いなく、ラインをしっかり捕らえていた。コートに降り注ぐ万雷の拍手を全身で浴びながら、天を指さし、上空をじっと見つめるマリー。しばらくそうした後に顔を下げると、人差し指でそっと目尻を拭った。
「プレッシャーや周囲の期待については、考えないようにしていた。でも潜在意識では何かを感じてはいたのだろう。無意識のうち、感激がこみ上げてきた」
英国人選手として74年ぶりとなるウィンブルドン決勝進出者は、胸の内をそう打ち明けた。
18歳でウィンブルドン3回戦に進出したその日から、マリーの歩みはつねに、歴史とプレッシャーとの戦いである。国民の期待を一身に浴び続け、今回が4年連続となる準決勝進出。会見でも毎日のように「プレッシャーを感じるか?」と聞かれ、そのたびに「自分の仕事に集中し、テレビや新聞を見なければ感じずにすむ」と応じたが、この状況がすでに、25歳の若者が背負っているものの重さを示していた。
だがこの日のマリーは、そのような息苦しさを少しも感じさせなかった。高い緊張感と集中力で試合に入り、第2ゲームでいきなりブレーク。以降は、時速133マイル(約213キロ)のサーブを軸に、第1セットを奪い去った。
第2セットに入ると、マリーはますます勢いを増す。相手に一度のブレークポイントも与えず、逆にツォンガのセカンドサーブはすべてポイントにつなげてみせた。ネットに出てくるツォンガの横を得意のカウンターでことごとく抜き、機を見ては逆にボレーを決めていく。犯したアンフォーストエラーはわずか1本。完璧な内容だった。
しかし第2セットを失ったところで、「背中に張りがあった」ため治療を受けたツォンガが、第3セットからは別人のような動きを見せる。フォアの強打でプレッシャーをかけ、ネット際でダイビングボレーを決めるなど躍動感みなぎるプレーを連発。この試合初めてブレークに成功したツォンガが第3セットを奪い返す。
第4セットは互いにブレークを奪い合う一進一退の攻防に。ツォンガは強烈なリターンでマリーにプレッシャーを掛けていくが、マリーもそのたびに200キロ超えのサーブやカウンターで危機を脱っしてった。
そして6-5とマリーのリードで迎えた、ツォンガのサービスゲーム。相手のスマッシュミスでマッチポイントを握ると、最後はフォアのリターンウィナー。重い扉をこじ開けたその瞬間、マリーはラケットを手から落とし、両手で顔を覆った。
「今晩は、とにかくこの勝利を楽しみ尽くす」
試合後の会見でマリーはそういうと、「そして明日にはボールをたくさん打って、日曜の試合に備える」とつづける。その決勝で対する相手は、過去にウィンブルドンを6度制している芝の王者ロジャー・フェデラー
「皆がフェデラーが勝つと思っているだろう。もう僕には、プレッシャーはない」
誰のためでもない。自分自身のために目指す決勝での勝利。それが実現したときは、「英国人76年ぶりのグランドスラム優勝」という歴史が生まれる。