ロンドン郊外で開催中のウィンブルドン選手権で、7月8日に男子決勝が行われ、第3シードのロジャー・フェデラーが第4シードのアンディ・マリーを、4-6、7-5、6-3、6-4で破り3年ぶりに優勝した。フェデラーは、ウィンブルドン優勝回数を7回に伸ばしてピート・サンプラスの史上最多記録に並ぶとともに、自身が持つグランドスラム最多優勝記録を17に更新。また2010年6月以来、約2年1ヶ月ぶりに世界ランキング1位に返り咲いた。
※写真は、ウィンブルドンを制し、グランドスラム最多優勝記録を17に更新したフェデラー
芝の王者が、未だその支配力と威光が健在であることを証明した捲土重来の日。同時にそれは、英国の夢と希望が打ち砕かれた瞬間でもあった。「76年ぶりの英国人選手によるウィンブルドン優勝」の可能性が消え、代わりにフェデラーの7度目のウィンブルドン優勝、さらには通算286週の1位在位が確定。それらはいずれも、ピート・サンプラスに並ぶ史上最多タイ記録である。
だが、序盤で世紀の戦いを優位に進めていたのは、スタジアムを埋め尽くす1万5千人の観客の声援と願いを背に、猛攻をしかけたマリーだった。最初のポイントをライン際に深く刺さるショットで奪い取ると、以降も全てのボールを強打し最初のゲームをいきなりブレーク。鬼気迫るその攻めが、マリーにとって、この試合の意味するところを物語っていた。第1セットは、地元のマリー。グランドスラム4度目の決勝戦にして、マリーが初めてセットを取ることに成功した。
だが芝の王者は、相手の出方を伺いながら、反撃に出る機をうかがっていた。マリーのサーブが少しでも甘くなると、フォアに回りこみ逆クロスを打ち込む。あるいは、アプローチショットを放つと軽やかなステップでネットにつめ、柔らかなタッチのボレーや豪快なスマッシュを決めていく。ネットに迫る前衛型のフェデラーに対し、ベースラインからの強力なストロークとカウンターで応じるマリー。第2セットは両者が持ち味を発揮する攻防の中、第12ゲームで息を呑むようなドロップボレーを沈めたフェデラーが、このゲームをブレークし、同時にセットも奪い返した。
第2セットまでが終わった時点で、総獲得ポイント数はフェデラーの77対マリー78。両者完全なまでに互角のまま、試合は第3セットに突入した。
そしてここで、緊張感に満ちた試合に一つの外的要因が入り込む。それが、第3ゲーム途中で降り始めた雨であった。雨天によりセンターコートの屋根は閉ざされ、戦いの舞台は“インドア”へと強制的に変えられてしまう。そしてこの変化が、均衡状態の試合に大きな影響を及ぼした。
「風が無くなりサーブが安定したので、もっと攻めて行こうと思った」
その狙い通り、フェデラーは自身のゲームを楽にキープすると、余力をリターンゲームにぶつけるかのように、マリーのサーブをフォアで果敢に叩いていく。そのフェデラーのリターンが圧力になったか、マリーはファーストサーブの確率が急低下。そうして、10度のデュースを数えた第6ゲームが、決定的な分岐点となる。両者ともに左右の強打やボレーにロブなど、あらゆるショットを総動員し一進一退の攻防を20分に渡って繰り広げた後、フェデラーがフォアの逆クロスを決めてブレーク。このとき、試合は事実上決まったと言えるだろう。
第4セットでは、懸命にボールを追うマリーの気力を削ぐフォアのスライスウィナーや、前がかりになった相手の心を折るバックのパッシングショットなど、フェデラーが多種多様なショットで支配権を完全に掌握。最後はマリーの渾身のフォアが僅かにラインを割り、それとほぼ同時に、フェデラーは歓喜の叫びを上げて芝に倒れこんだ。
「去年の準々決勝でのジョー(ウィルフリード・ツォンガ)戦の敗退、そして全米でノバク(ジョコビッチ)に敗れたときは、本当に落ち込んだ」。
その失意と周囲からの懐疑の声を「自分を信じること」で拒絶し、前を向き続けたフェデラー。そして今年、史上最強と謳われる王者は、伝統の芝のコートで帰還を果たした。