
プロ車いすテニスプレーヤーの小田凱人(東海理化)が、9月2日から6日わたって開催された「全米オープンテニス」に優勝したことで、生涯ゴールデンスラムを達成。19歳3カ月29日という車いすテニス史上最年少での偉業となった。その帰国会見が、9月9日にコングレスクエア羽田にて行われた。

約1時間におよぶ会見は「小田凱人」らしさに溢れており、飛行機で考えたという最初の挨拶からユニークだった。
「虹は雨の後でしか見られません。
雨の中でも見られません。
全てが過ぎ去った後に虹は見られます。
僕にとってニューヨークでの出来事はそんなようなものでした。
どれだけ結果を信じても、夢を願っても、人を愛しても、
それが叶わない時や愛されない時もあると思います。
自分を信じて自分のことを愛するまでは。
僕は自分のことを信じられなくなったことは1度もありません。
僕は自分を愛せなくなったこともありません。
だから僕は虹を見られたんだと思います」
これが相手に4度マッチポイントを握られながらも逆転した決勝についての、小田ならではの表現だった。ストレート勝利よりも、逆境を乗り越えて手に入れた勝利だからこそ、涙が出るほどの喜びを味わうことができた。逆境を乗り越える力は、自分を信じて愛すること。「誰よりも練習してきたという自信がある」。これが自分を信じられる源だろう。

国枝慎吾さん引退後、車いすテニス界の第一人者となっている小田だが、会見ではその枠に収まるつもりがないことが伝わってきた。「(車いすテニスを)ポピュラーなスポーツにしたいのが一番の願いです」。自身についても、「自由に色々なことに挑戦して、車いすテニスプレーヤーだけど、一人のゲームチェンジャーでありたい」と思いを語った。
そのために自分に何ができるのか。現在考えているアイデアは、「車いすでない人でも車いすテニスができる大会を開きたい」ということ。健常者が車いすテニスをしてもいいのではないかという発想である。車いすテニスに触れられる機会となるように、「テニスクラブや小学校に車いすをプレゼントしたいと思っている」と明かした。
「これからのスタンダードを作っていきたい。『無理じゃね?』と思うことばかり想像しちゃう」と、未来への挑戦について楽しそうに話す。

実際にこの優勝を機に行動を起こしていることもある。自身のインスタグラムで現状を伝えることだ。みんなが気になる収入について『2年前ぐらいから億稼いでいる』と明かしている。「難しいところではあるけれど、色んなことを発言していきたい」というのは、パラスポーツ界だけでなく、広く一般に影響力を与えていきたいとの考えからだろう。彼の認知度が上がるほど、車いすテニスがポピュラーになることは間違いない。
そして、19歳という若者の1人である小田は、小中学生に向けて会見のところどころでカッコいいメッセージを送っている。
「自分がいいと思ったらいい。それを賞賛されても批判されても、意識したことはなかった。自分がやっていることに対して迷いがないのが大事。そこは妥協したくない」
「一歩踏み出すのが一番難しい。それが一番大事。まずはやってみよう」
新しいスタンダードを作り出そうしている若者の言葉は響いただろうか?

小田の次の試合は、東京・有明で開催される「木下グループジャパンオープン」。9月27日(土)~29日(月)に車いすテニス部門が開催される。小田凱人という稀有な若者に魅力を感じたのなら、彼が輝く姿を生で見てみよう。
小田のテニスでの目標は、「年間グランドスラム」「来年負けなし」「サービスで時速200キロを出したい」「スタジアムで試合がしたい」である。
取材・写真:赤松恵珠子


