世界トップレベルの理由２

この2枚の写真は、アテネパラリンピックから帰国した直後の羽田空港で写したものです。上段の写真後方左からホルスト・ギュンツェル氏（ＴＴＣ強化部長）中央は小生、右側は三浦雄一氏（仙台・ナスパＴＣヘッドコーチ）下段の写真は左より三浦氏、中央は小生、右側は加藤信昭氏（ＴＴＣ広報・ビジュアルマネージャー）、前列は2枚共に、金メダルを掲げている斎田・国枝両選手です。さて、アテネ終了後すぐさま北京までの4ヵ年計画を立てるべく行動に出ました。特に国枝選手に関しては、当時世界ランキングも8位でしたので、本人の目標も聞きながら、それが達成されるにはどのようにしていったら良いのか時間をかけて話しました。

国枝選手の言った言葉は、世界ランキング1位。北京で「金」と言いました。それを実現させるためには、具体的にどのようにしていけばよいのかを、4年後のテニスがどのように変化しているかを予想しながら話し合いが進みました。その結果、「スピード＆パワー」の時代になって行くだろう予測のもと、フォアハンドの改良に取り組みました。当時は、コントロール主体のスピン系であり、しかも派手に厚いウエスタングリップ。そこから、現在のセミウエスタンに変えることとなりました。グリップを変えるということは、テニス生命に係わる問題を抱えます。成功すれば1位になるかもしれませんが、最悪はランキングを維持することは愚か下げる可能性も充分にあり得ます。何も保障がないまま、「できる」という強い思いと、「夢」にかけました。小生にとっても、苦渋の選択でしたが、やはり「夢を叶えたい」気持ちが強く、成功させるためには慎吾のために死んでも・・・という気持ちがありました。そうと決まれば、その日から初心者レッスンのスタートです。毎日ホームランの連続。野球であれば、毎回打席ホームランのギネスにでも載ったでしょうね。目を覆いたくなるような日々が続きました。しかし、国枝選手はあきらめることなくこの挑戦に挑みました。練習後、「コーチ素振りをどれくらいしたらいいかな？」の質問に対し、「1000回だな」と回答。500回ぐらいやってくれれば御の字だなと思いつつ。国枝選手は休むことなく毎日1000回やり遂げました。まともに入るボールが、日に日に少しずつ増える。この変化が「楽しい」と彼は言っていました。トレーニングでは、ホルスト氏と毎回追い込みの練習。ビジュアルの加藤氏にも練習中には、毎回ビデオを録っていただきチェックの繰り返し。
壮絶な日々の繰り返しでしたが、当の本人は「自分の変化を楽しむ」かのように過ごしていました。勿論プレッシャーはあったと思いますが、「苦しい中でも楽しむ気持ちを持って練習」ができるということです。おかげさまで、ランキングを1度も下げずに、2年後には1位に登り詰めました。異常なまでの「徹底度」、やり続ける「決意」、1位を目指す「覚悟」、これは世界レベルの物差しに必要な目安だと思います。