錦織圭(テニス)

錦織圭(テニス)有明コロシアムおよび有明テニスの森で開催中の楽天オープンは、10月2日に大会2日目が行われ、錦織圭添田豪の日本人対決を含め、伊藤竜馬杉田祐一ら日本勢が登場。日本人対決を制した錦織が、4年ぶりに2回戦に進出。また伊藤が、世界ランキング12位のニコラス・アルマグロを破る金星を上げた。

濃紺のウエアをまとった身体がふわりと宙を舞うや否や、豪快なフォアのクロスがコートをえぐる!――通称“エアK”を叩き込んだ錦織は、気合い一閃、ガッツポーズと共に大きな叫び声を上げた。第3セットのゲームカウント4-3の場面。1ブレークリードしながら、この第8ゲームでは15-40と2つのブレークポイントを許していた。その2本目をしのいでデュースに持ち込んだこの“エアK”は、試合の行方を決する重要なポイントとなった。

立ち上がりは、錦織と添田の両選手ともに硬さが見られた。2人とも「やりにくい」と口を揃える、友人対決。「自分も緊張したし、添田くんが硬くなったのも分かった。お互いに、力の20~30%しか出せていなかったと思う」という第1セット、錦織はサーブが安定せず、先にブレークするも自分のゲームをキープできない。

「数日前から痛みが出た」という左膝の状態も、サーブに影響したようだ。その錦織の隙を見逃さず、添田は得意のバックでセカンドサーブを叩くと、どんどん前に出てネットでポイントを重ねる。第1セットは、添田の6-4。7月の対戦でも圧勝した日本の2番手が、この日も大きなリードを奪った。
  
だが第2セットに入ってからは、「緊張が取れて、足も動くようになってきた」という錦織がラリーを支配する局面が多くなる。添田は時速200キロ超えのサーブで押しこむが、コートめがけ急降下するスピンの効いた錦織のフォアが、次々にライン際をとらえ始めた。サーブの調子も尻上がりに良くなった錦織が、最後はサーブウィナーを3本連ねて、第2セットを奪い返す。

第3セットの立ち上がりは、流れを変えるべく添田が攻める。第1ゲームをデュースの末にキープすると、第2セットでは自ら仕掛けるテニスでブレークポイントを手につかんだ。

だがこの重要な局面で、錦織が集中力を高めギアを上げる。サーブをしっかり入れてまずは自身のゲームをキープすると、次のゲームでは勝負をかけた。バックのリターンウィナー、さらにリターン&ボレーを叩きこんでポイント先行。最後もフォアのリターンを決めて、重要なゲームを力強く奪い取った。
 
試合後の錦織は、嬉しさよりも何よりも、安堵に満たされた表情を見せた。「今年、添田くんとは特に仲が良くなってきたので、やりたくなかった」と苦笑いの日本決戦。それでも試合終盤に見せた迫力のパフォーマンスは、世界のトップ20としてのプライドだろう。

敗れた添田にしても、試合後の表情は柔らかい。「今は、持てる力を出し切ったという清々しい気持ち。試合前には緊張もあったので、終わって安堵感もある」。

悔しさ以上に、日本の多くの観客の前でワールドクラスの打ち合いを見せた充実感をにじませた。

そしてこの日、錦織や添田以上のインパクトをファンに残したのが、日本三番手の伊藤だろう。世界12位のアルマグロを、2セットともにタイブレークで奪って撃破。単に勢いで押し勝ったのではなく、相手にリードされながらも追いつき、競った中で精神的な強さを発揮しての勝利であるところに、とてつもない価値がある。

胸のすくような思い切りの良いプレーが身上の伊藤だが、今年の夏は、その豪快さが鳴りを潜めた。「勝って、早く上にいかなくてはという気持ちが空回りした」ために、大切な場面で弱気になり、勝ち星から遠ざかる。2週間前に日本で行われたデ杯では、シングルスとダブルス両方で敗れ、精神的にも落ち込んでいた。

その迷いが、日本の大会で上位選手と戦うことで、ふっきれた。得意とするフォアで押し込み、ピンチに陥っても目の前の1ポイントに集中した。「何も考えずに挑んだ」とは言うが、「深追いしすぎず、スピンを掛けて高低差を使うことを心がけた」と策も万全である。

「相手が弱気になっているのも見えた」と、相手の真理を読むほどに冷静でもあった。最後のポイントも、先にバックでダウン・ザ・ラインに仕掛け、相手のミスを誘発した。

 「ホームで戦うのは、やはり一番、気分が良いです」

 復活のドラゴンが、次なる大物食いを狙っている。

その他の試合では、全米オープン優勝以来の公式戦を戦ったアンディ・マリーが、ビッグサーバーのイボ・カルロビッチを退けて、連覇に向け好発進した。

※写真は、楽天オープン1回戦で、添田豪との日本人対決に勝利した錦織圭
photo by Hiroshi Sato

楽天ジャパン・オープン

シングルス
1回戦
アンディ・マリー(英国)[1] 7-6(7) 6-4 ●イボ・カルロビッチ(クロアチア)
ジェレミー・シャルディー(フランス) 6-1 7-5 ●杉田祐一
○Marco chiudielli(スイス)7-6(3) 6-2 ●Martin Klizan(スロバキア)
ミロス・ラオニック(カナダ)[6] 6-4 6-4 ●ラデク・ステパネク(チェコ)
伊藤竜馬 7-6(4) 7-6(5) ●ニコラス・アルマグロ(スペイン)
ドミトリー・トゥルスノフ(ロシア) 6-7 7-5 ●バーナード・トミック(オーストラリア)
錦織圭[8] 4-6 6-2 6-3 ●添田豪
○トミー・ロブレド(スペイン) 6-2 6-2 ●ヤルコ・ニエミネン(フィンランド)
アレハンドロ・ファリャ(コロンビア) 7-5 6-2 ●トーマス・ベルッチ(ブラジル)