2018年のツアーもウィンブルドンが終わり、約半年が消化した。女子テニスを見てみるとセリーナとビーナス姉妹、ウォズニアッキら超ベテランが依然強く、若い選手は優勝したかと思えばバタバタと姿を消している。
そんな中で、「今後の女子テニス界を牽引する真の女王の座に就くのはダレか―?」テニスライター内田暁のコラムをお届けする。
それはこの1年ほど、ファンや関係者の間で問われ続けた命題だった。
最大のスターであるマリア・シャラポワが2016年1月以降ドーピング違反のため1年以上コートを離れ、元世界1位のビクトリア・アザレンカは、ケガからの不調から完全復帰を果たしたかと思われた直後に、出産によりツアー離脱。
ライバルたちが続々姿を消すなか独裁国家を築いていたセリーナ・ウィリアムズまでもが、昨年の全豪オープンを最後に産休に入った。
女王空位の混乱下で、果たして新世代が一気に世代交代をなすのか、それとも中堅たちが繰り上がりで頂点に立つのか?
“無冠の女王”たちが目まぐるしく世界ランキング1位の席に座しては去るなかで、求められるのは誰もが納得する実績や存在感を備えた君主の誕生だった。
迎えた全仏オープンで、その期待を最も集めていたのは、シモナ・ハレプだったろう。
全仏で過去2回、そして今年1月の全豪オープンでも決勝で敗れたハレプには、いつのまにか見る者を惹き付けるカリスマ性が備わっていた。
他のトップ選手に比べれば小柄ながら、努力に裏打ちされた圧倒的な運動能力と頭脳的な組み立てで勝利を追い求める姿が、他の選手からも敬意を寄せられる理由だろう。
そのハレプ本人が最も欲したのが、全仏オープンのタイトル。頂点に向けての旅は初戦で苦戦する困難な船出だが、そこを突破すると潮流に乗った。
決勝は第2セット中盤まで完全なる劣勢に身を置くも、昨年の決勝で逆転負けを喫した経験を生かして、今度は自らが逆転する。
センターことを埋め尽くす「シモナ」コールと母国ルーマニアのフラッグに祝福され、この日ハレプは、真の女王の権利を得た。
ただ、サーフェスの特性をクレーの全仏から180度転換させるウィンブルドンの芝の上では、また異なるヒエラルキーが生まれ、新たな物語が奏でられた。
2016年に全豪と全米を制したアンジェリーク・ケルバーは、不動の女王に最も近い存在と目された選手。
だが昨年は、重圧やライバルからの包囲網に押しつぶされるように成績を落とす。それでもコーチを変え、技術やプレースタイル面でも幾つかの変革に取り組みながら迎えた今季、彼女は周囲の視線が若手やハレプらに向けられる間、密かに力を蓄えていた。
その力が一気に開放されたのが、ウィンブルドン。新コーチと共に取り組んできたサーブ力の向上、そして相手に先んじて攻める攻撃的姿勢は芝の上で効果を発揮する。
決勝では、産休明けでまだ本来の動きには遠いセリーナ・ウィリアムズを、機先を制して動かし続け完勝を手にした。
今年のインディアンウェルズで決勝を戦った大坂なおみとダリア・カサキナら、今年21歳を迎える世代の躍進も目立つここまでのシーズン。
だが結果的には、経験に勝る中堅~ベテラン選手が、意地のビッグタイトル獲得をはたしている。
今年の全豪を制したウォズニアッキも含め、これらタイトルホルダーたちと若手が次なる覇権を争っていく――そのような勢力図が浮き彫りになりはじめた、今年の欧州シリーズであった。
ダブルスでの頂点獲得の可能性を示した
穂積絵莉/二宮真琴(橋本総業)ペア!
日本人の活躍に目を向けると、全仏・ウィンブルドンでいずれも3回戦に勝ち進んだ大坂なおみの安定感も目につくが、やはり印象に残ったのは穂積絵莉/二宮真琴ペアの全仏ダブルス準優勝だろう。
久々に組んだペアながら、前衛で圧倒的な決定力を誇る二宮と、後衛でロブなども混ぜながら安定のストロークでポイントを作る穂積のプレーがカチリと噛み合う。
中でも圧巻は、世界1位ペアから快勝をつかんだ準々決勝。序盤は相手のプレーに押されながらも、試合中に二人で話し合い、戦術を再構築する適応力と幅の広さを示した。
決勝戦後、二宮は当面の「ダブルス専念」宣言をする。その先に目指すのは、東京オリンピックのメダル。
ここから先の1年ほどは、まだペアの固定化にはこだわらず、海外選手とも組みながら個の実力向上を目指していくつもりだという。
日本女子のダブルスでの活躍は近年目覚ましく、ツアーでも“94年組”を中心に多くの選手が決勝を経験している。そのなかで今回グランドスラムの頂点に肉薄した穂積/二宮の活躍は、同じ地点を目指す他の選手たちにとっても希望と指標になったはずだ。
by 内田暁 テニスライター
錦織圭(日清食品)、大坂なおみ(日清食品)達は7月30日から始まるCITI OPEN、その後はカナダでのカナダオープン、そしてシンシナティと男女共催大会に出場予定。
記事:塚越亘/塚越景子 photo/H.Sato/TJapan