ロンドン郊外で開催中のウィンブルドン選手権は27日に男女2回戦を行い、添田豪が第9シードのリシャール・ガスケと対戦。1セットを奪う健闘を見せたが、0-6、3-6、7-6(5)、3-6で敗れ、金星獲得は成らなかった。
ガスケとネット際で握手を交わすと、第1コートのスタンドに向かって礼儀正しく頭を下げ、拍手を背にコートを去った。「力を出し切ったという気持ちはある。もちろん悔しさもあるが、去年以上のプレーも出来たと思うし、こうやって戻ってこられたのが嬉しいです」
まだ芝が荒れていないウィンブルドンのナンバー1コートに立ち、“天才”と称されるガスケと2時間28分に及ぶ熱戦を繰り広げた――その満足感と自分のテニスを取り戻せた安堵感が、試合後の添田の身体を満たしていた。
だが、第1セットを1ゲームも奪えず僅か20分で落とした時、添田の胸中に過ぎったのは「1ゲームも奪えないのではないか」という不安であった。
「ガスケは、バックが良く独特の雰囲気を持っている選手。苦手意識があったので、正直、試合前はポイントを取れるイメージが無くて不安だった」そのような不安と緊張が、添田から本来のスピードと安定感を奪っていた。第2セットも早々にブレークを許し、あっという間にガスケが8ゲーム連取。「0-6、0-6になる最悪のシナリオが頭を過ぎった」と言い、頭の中は「パニック状態」だった。
その様相がガラリと変わったのが、第3ゲームでブレークに成功し最初のゲームを撮ったところからだ。「長いラリーだと相手の技術や上手さにやられてしまうので、サーブ&ボレーなど早いポイントを心がけた」
足を動かし、恐れを振り切り、前に突き進みボレーを決める。そうすることえ心技体が噛み合い、プレーに好循環が生まれはじめた。攻撃のリズムに引っ張られるように、リターンからも積極的に攻めていく。圧巻は第3セットのタイブレーク、2-5とリードされてからの5ポイント連取の逆転劇。
「自分のサービスをキープすればチャンスがあると信じていた。会場のファンもあの時は僕を応援してくれたので、その流れに乗れた」
自分を信じ、大好きなウィンブルドンの雰囲気に身を委ね、恐れず攻めてクロスやバックのダウンザラインを叩きこむ。最後はワイドにエースを決め、ついにセットを奪い取った。
第4セットは、ガスケに常に先行されるが、その都度ブレークバックし追いすがる。だが、ブレークバックしたその直後のゲームを、どうしてもキープできなかった。「ブレークバックした後に直ぐにまたブレークされたのが勿体無かった。あそこでキープ出来ていれば、相手ももう少し余裕が無くなったと思う」
力を出し切った充実感の中で、ほんの僅かに、心に刺す悔いの痛み。それでも、勝ち星に見放された今シーズン序盤の苦しみを思えば、予選を勝ち上がってのウィンブルドン2回戦進出、そしてガスケ戦の健闘で得たものは計り知れない。
「トンネルの中で、進むべき方向の光が見えてきた。そこに向かえば良いと分かったのは大きな希望。これからが楽しみだし、より良いプレーができると思う。自分のテニス人生終盤にきて、もう一度、テニスの楽しみが戻ってきた」
ウィンブルドンと深い縁を感じ、ウィンブルドンに助けられてきたとまで言う添田の“楽しみ”は、ここからはじまる。
写真は、ウィンブルドン2回戦でサーブを打つ添田豪
Photo by Hiroshi sato